先日、セツでは風景写生会が行われました。
これは、「外に出て絵を描こう!」という試みで、その際は通常の授業がお休みになります。
期間中(6/12~6/16)であれば何枚描いても構いません。
また、期間中には助手と生徒たちが一ヶ所に集まって描く機会が設けられました。
集合場所は僕の地元である横浜で、山下公園や港の見える丘公園で描くことになっていました(もちろん、写生する場所に制約はなく、家の近所や室内でも構いません)。
紙はこの前の人物水彩と同じく、四六判半切(545mm×788mm)サイズです。
これはかなりサイズが大きいので、普段僕がスケッチブックに描くのとは異なり、折りたたみ式のイーゼル(絵を立てかけるもの)や、大きな画板などが必要になります。
一応、この日のためにそれらのスケッチ用具を用意しておきました。
しかし、僕はこの前の人物水彩の一件もあり、なかなか絵を描くモチベーションが上がりませんでした。
絵を描いたとしても、どうせたいした作品にならないだろう。
そういうネガティブな感情が頭を渦巻いており、どうしても一歩外に踏み出す気になれなかったのです。
そんなわけで、せっかく助手が用意してくれた横浜のツアーにも参加せずに、ずっと自宅に引きこもり一枚も絵を描いていませんでした。
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そして迎えた最終日。
「ここで描かなくては、自分はだめになる!」と言い聞かせて、無理にでも外に出て描くことにしました。
スケッチ用具をスペインの巡礼に行ったときに使った40リットルの大型のリュックにつめ、えいやっと重い腰を上げ出発しました。
天気は曇りで、今にも雨が降りそうでした。
しかも、途中で道を間違えて大幅に時間をロスしてしまい、ますます気持ちは暗くなっていくのでした。
ようやくのことで目的の場所に到着し、スケッチ用具を広げてスタート。
場所は「描くとしたらここしかない」と決めていた、横浜の磯子にある火力発電所の近くです。
発電所の建物は海に面しており、その対岸は波止場になっています。
あまり綺麗な海ではありませんが、魚も泳いでいるらしく、ここで釣りをしている人もいました。
僕はこの波止場から見える発電所の煙突が好きで、以前にも二回ほどここに来てスケッチしたことがありました。
(正確に言うと初めての場所ではないので、ちょっとずるかったかもしれません)
しかし実際に描き始めてみると、色が上手く決まりません。
ネガティブな感情になっていたせいもあってか、半ばやけくそになって、もともと灰色だった空を紫色で塗ってしまいました。
途中で「ああぁ、この色は失敗したかなぁ」と思いながらも、ここで止めるわけにはいかないので、しぶしぶ作業を続けました。
そんなこんなで、どうにか完成した絵はあまり満足のいく出来ではありませんでした。
紫の空の上から絵の具を塗りつぶすように建物を描いたため、全体的に色味がくすんで見えます。
これは僕が理想とする「人の心を和ませる絵」とは程遠く、かえって心の中がうすら寒くなるような絵になってしまいました。
本当はもっと透明感のある絵を描きたいのですが、「下描きなし」という制約があると、透明感を出すのは非常に難しいんですよね…。
どうしても、不透明な絵の具を重ねた厚塗りになってしまいます。
僕はがっかりした気持ちになりました。
それでも「とりあえず最低限のことはやった!これで講評会に出せる!」と自分自身を納得させ、片付けてから帰路に着きました。
心配していた雨は、途中でぱらつくことはありましたが、本格的に降ることはなくてよかったです。
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そして、翌日にセツの校内で合同講評会が行われました。
生徒たちは期間内に描いた絵を持ち込み、一室のアトリエにずらりと貼り出します。
中には一人で八枚の絵を描いた生徒もおり、自分のしょぼさが目に見えました。
並んだ絵はどれも個性的です。
助手はそんな絵に対して、一人ひとり講評をつけていきました。
僕はそれを聞きながら、「ああ、悔しい!やる気が出ないのにかこつけて、サボっていた自分が恥ずかしい!」という思いにとらわれていました。
そして迎えた僕の絵の番。
助手は僕に対して、描いた場所や時間帯などの質問をしました。
「空の紫色がいいわね。一枚しか出していないから本当はいけないけれど、Aです!」
Aというのは最高の評価です。
僕は思わず内心で「エエエェェ(゚Д゚)ェェエエエ」と唖然としてしまいました。
なぜなら、空の色がこの絵で最も良くない部分だと思っていたからです。
「実際のものとはちがう、大胆な色使い」が評価されたのでしょうか。
この前の人物水彩のときは、最も気に入っていた「顔」がダメ出しされましたが、今回は最も気に入っていない「空」が評価されたというのは、どういうことなのだろうと思いました。
そしてAの評価を受けた作品は、ロビーに貼り出されることになりました。
本当は、あまり貼り出して欲しくない絵だったのですが…。
前にも描きましたが、もちろん良い評価を得るために絵を描いているのではありません。
(でもこのことを書いている時点で、評価のことを気にしているのかも?)
それでも、こき下ろされることを覚悟していたので、それに比べればずっと嬉しいです。
目をつぶってバットを振り回したら、偶然ボールが当たってヒットになったような気分でした。
そして、ヒットを打つためには、数多くバットを振らないといけません。
偶然でもヒットになるように、もっと枚数を描かないといけないと肝に銘じました。
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この文章を書いていてふと思ったのですが、もしかしたら「大胆に描く」ということは、僕にとって必要なことなのかもしれません。
なぜなら僕が普段スケッチするように、ちまちまと緻密に描くことにはおのずと限界があるからです。
下手をするとその「枠」の中に閉じこもって、それ以上世界が広がっていかないのです。
また、細かく描こうとすればするほど、失敗を恐れるようになってしまうのかもしれません。
僕がセツを選んだ理由の一つに、「その『枠』を壊して精神的に自由になりたい」という欲求があり、ここならそれを叶えられるかもしれない、という狙いがあったのです。
もちろん、緻密に描くことも捨ててはいけません。
緻密に描けば描くほど、作品としての密度が上がるからです。
ですが、その一方で大胆に描くのも時には必要なのかな、と思いました。
写生大会の期間は過ぎてしまったのですが、またどこかに出かけて、この描き方でスケッチするかもしれません。
そのときはもっと自由に、失敗を恐れず、伸び伸びと描こうと思います。
自分自身の「枠」を壊すために。
Keisuke