僕が通っているセツ・モードセミナーは、7月20日から夏休みに入りました。
期間中には「四六判半切サイズの絵を三枚以上描く」という課題が出されました。
四六判半切は、普段の授業で人物水彩を描いているサイズです。
(とは言え、夏休みは四十日以上あるため、たった三枚だけでは少なすぎるのですが)
何を描くかというテーマは自由です。
課題の内容が書かれた貼り紙には、「荒削りでも全力でぶつかってくるような作品を!」という趣旨の内容が書かれていました。
うむむ…僕にそんな絵が描けるのだろうか…。
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ともあれ、心配しても仕方ありません。
さっそく僕は一枚目の絵を描くため、横浜にある鶴見線の国道駅に向かいました。
この駅には以前にも訪れたことがあります。
以前にも書きましたが、駅のガード下は戦前に造られてから、ほとんど変わっていません。
僕はその昭和のうらぶれた雰囲気が好きなのです。
JR鶴見駅で下車し、歩いて国道駅に向かいました。
現場に到着したのは朝の9時前です。
前回はここの近くの鶴見川でスケッチしましたが、「今日はこのガード下で描こう!」とあらかじめ決めていました。
当日、外はかなり暑かったのですが、ガード下は直射日光が当たらないため、まだ涼しいほうでした。
それでも幹線道路の近くにあるため、むあっとした熱気がときどき襲ってきます。
さて、今回はある方針で絵を描くことにしました。
それは、黒い絵の具を極力使わないということです。
それには二つの理由があります。
一つ目は、今日の狙いは軽さをテーマにしているということから。
この場所は薄暗いので、ちゃんと色合いを再現するなら黒を使うべきでしょう。
しかし、黒をふんだんに使うと絵が重くなってしまうのです。
二つ目は、色に関しては思い切ってアレンジしようと思ったから。
先ほどの人物水彩の授業の記事で書いたように、色についてもっと冒険してもいいのかもしれない、と思ったのです。
というわけで、今回は暗い部分を青色を中心に使って描こうと決めました。
また、その補色であるオレンジ色も多めに使おうと思いました。
そんな狙いを持ちながら、通行人の邪魔にならない場所で、スケッチ用具一式を広げて始めることにしました。
ですが、いざ描き始めてみると、非常に難しかったです。
こういった構造物は、自然の風景を描くのと異なって、ちゃんと直線で形が決まっているからです。
今回も、いつもセツの授業でやっているように、下描きをせずにいきなり筆で描き始めました。
しかし、何度描いても絵の辻褄が合わなかったので、かなりの描き直しを迫られてしまいました。
特に連なっているアーチ構造を描くのが難しかったです。
描き直しをすると、今使っている絵の具では上に重ねた絵の具に下の色が透けるので、どうしても濁ってしまうのですよね…。
形の狂いを気にせずに色だけに集中したほうが、今回は良かったかもしれません。
また、途中でお腹が痛くなって、近くのコンビニのトイレに行くなど、あまり良い調子で描くことができませんでした。
ガード内の通行人は、思っていたよりもずっと多かったです。
僕はイーゼルを立てかけ、大きい紙に描いているので、いやでも目立ってしまいます。
一人のおじさんは、僕に話しかけてきました。
「私はね、この近くでペンキ屋をやってるんです。
絵は描けないけれど、どんな色を使っているかには興味があるんですよ」
「へえ~、そうなんですか」と、僕。
「もう少し黒い絵の具を使うと、国道駅らしい雰囲気が出るんだけどね」
僕が青を中心に描いているのを見て、彼はそう言っていました。
また、別の男性は「上手く奥行きが出てますね」と褒めてくれました。
(僕としては、あまり奥行きが出ている感じはしなかったのですが…)
それから、男性は僕に対してこんな相談を持ちかけてきました。
「私も絵を描いているんだけど、上手く奥行きが出ないんですよ。
SLが遠くに向かっていく様子を描きたいんだけど…」
僕はその人に対して、立方体を描いて簡単なパースのつけ方を解説しました(かなり適当ですが)。
彼は「いやぁ、勉強になりました」と言っていましたが、本当に上手く伝わったのかどうか少し疑問が残ります。
この日は休日だったため、利用しているのは地元の人だけではなく、わざわざこの駅を訪れて駅構内で写真を撮っている人もたくさんいました。
穴場的ではあるにせよ、知っている人にとっては有名なスポットなのかもしれません。
一人のカメラマンはずっと同じところで撮っていたため、彼の姿を絵に描き加えることにしました。
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なんだかんだで午後三時過ぎまで描いていたのですが、結局、ちゃんと納得のいく出来にはなりませんでした。
あまり奥行きを出すことができなかったため、やや平板な印象を与えます。
また、本来であるならガード下はもっと暗いのですが、全体的に明るくなってしまいました。
ですが、これ以上暗くすると色が濁ってしまうかもしれないのですよね…。
う~む、難しいところです。
もしかしたら、セツで習う下描きをしない描き方は、直線的な構造物とは少し相性が悪いのかもしれません。
結局、課題の趣旨である「荒削りでも全力でぶつかってくるような作品」にはなりませんでした。
まあ、絵を描いていればこんなこともあるかと思います。
野球の打者だって、三割打てれば上出来なのだから。
Keisuke