相撲部屋の見学に行ってきました

先日、東京の両国に行ってきました。
相撲部屋を訪れ、稽古の見学をするためです。

これを読んでいる人は「なぜ唐突に行こうと決めたの?」と疑問に思うかもしれません。

きっかけは数年前に見た、ネットでの書き込みです。
はっきりした文面は覚えていないのですが、そこにはこんなことが書かれていました。

「とあるイラストレーターは、画力向上のために相撲部屋を訪れてスケッチしている」

それを見たときは「ふーん」といった程度の感想しか浮かばず、特に意識していなかったのですが、心のどこかでそれがずっと引っかかっていたようです。

それが最近になって、ふっと頭に浮かんできました。
そして「今なら行けるかもしれない」と考えたのです。

また、最近はセツで人物デッサンの授業を受けて、少しずつ自信を持てるようになってきたので、ある程度なら描くことができるのではないか、と考えた面もあります。

とは言っても、大相撲については最近はあまり熱心に見ていません。

15~20年ほど前に若乃花・貴乃花などの力士が活躍していた頃は、家族でよくテレビ中継を見ていました。

しかし、彼らが引退して朝青龍白鵬が活躍し始めた頃から、だんだん相撲から興味を失ってしまいました。

それでも完全に興味がなくなったわけではありません。
最近は新聞で勝敗を見る程度ですが、やっぱり僕にとってなじみの深いものだと思います。

さて、相撲部屋が見学できるといっても、いつも見られるとは限りません。
力士たちは年六回の本場所や地方巡業などがあり、何かと忙しいからです。

そんな中、六月は大きなイベントもなく、見学のしやすい月だと言われています。
(月末になると来月に名古屋場所が開催されるため、移動してしまいますが)

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実は以前にも一度見学をしようと思って、相撲部屋に足を運んだことがあります。

事前に見学についてネットで調べたところ、とあるサイトにはこう書かれていました。

「当日に部屋を訪れてインターホンを押し、見学に来たことを伝えればOK!」

そのため、僕は予約をすることなく、そのままふらっと出かけていきました。

特にお目当ての力士がいるわけでもないので、見学可能な四部屋をピックアップし、順に回っていくことにしました。

そのうちの一部屋くらいは見学させてくれるだろう、と甘く見積もっていたからです。

しかし、一部屋はインターホンを押しても返事が無く、一部屋は予約が必要で、残りの二部屋は来客のため見学を断られてしまいました。

結局、この日はどこも見ることができず、がっかりしながら帰りました。
(このときは持ってきていた折り畳み傘を壊してしまうなど、散々な日でした…)

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そこで今回は予約を取って、指定の日時に訪れることにしました。
お邪魔させてもらったのは「八角部屋」です。

この部屋は、元横綱の北勝海(ほくとうみ)が現在の親方を務めており、最近では幕内で隠岐の海(おきのうみ)関が活躍しています。

相撲の稽古は朝早くから始まり、午前中には終了してしまいます。
そのため、当日は早起きして両国駅まで電車で向かいました。

駅の構内には、優勝力士が描かれた巨大な絵が飾られていました。
これは「優勝額」と呼ばれるもので、国技館の四方を取り囲むように飾られているものです。

僕はこれは写真だと思っていたのですが、実際には絵だったのですね。
(現在は印刷技術の向上もあり、カラー写真になっているそうです)

白鵬と武蔵丸の優勝額
白鵬と武蔵丸の優勝額
力士の手形
力士の手形

駅のすぐそばには大相撲の本場所が開かれる両国国技館があり、その周りには相撲部屋や、ちゃんこ料理屋が点在しています。

まさにここは相撲一色という場所なのです。

八角部屋は駅から約10分ほど歩いた、下町の中にあります。
8:00頃に部屋のある建物の前に到着しました。

八角部屋の入り口
八角部屋の入り口

扉を開け、出迎えてくれた人(力士の曲げを結う床山さん?)に名前を告げると、彼は快く案内してくれました。

見学者の中では、僕が一番乗りだったようです。

玄関で靴を脱いで廊下を渡り、稽古場の引き戸を開けます。
そこには、稽古用の黒い廻しを締めた20名ほどの力士たちの姿が。

「おお、やってるやってる!」と期待が高まります。

力士の稽古場から一段高くなったところには、見学者用の座布団が横一列に並べられていました。

床山さんに奥から詰めるように指示されたので、一番右に座って見学することにしました。

僕が少し緊張して正座していると、力士の一人が「足を崩しても構いませんよ」と話しかけてくれました。
なんだか彼はすごくいい人です(笑)

稽古場の中央には土俵があり、黒い土が薄く敷かれています。

見学者席と土俵との距離は非常に近く、手を伸ばしたら力士に触れることができそうな程でした。
(実際にやってはいませんよ!)

僕が到着したときには、まだ稽古は始まったばかりだったのですが、部屋の中は力士の熱気でムンムンでした。

この日はそれほど暑くなかったのに、すでに大粒の汗をかいている力士もいます。

土俵上では、「申し合い」という勝ち抜き戦が行われていました。
これは二人の力士が土俵上で勝負をして、勝った力士はそのまま土俵に残り、別の力士たちの挑戦を受ける、という稽古です。

挑む力士は勝負が終わると「おいっす」と言って手を挙げ、勝ち抜いた力士に挑戦します。

その周りを力士たちが取り囲んでいました。

彼らは土俵での稽古の様子を眺めたり、重りを抱えながらすり足をしたり、部屋の角の柱に向かって「てっぽう(突き押し)」をしたり、四股を踏んだりしていました。

上から見た図
上から見た図

しばらくすると、他の見学者たちもぞろぞろとやってきました。

その中には通訳の日本人をつれた外国人らしき姿も見えました。
今、やはり相撲は海外でも注目されているのでしょうか。

僕はしばらく稽古の迫力に圧倒されてしまいましたが、当初の目的を思い出し、紙と鉛筆を取り出してスケッチをすることにしました。

一応、今回の狙いは三つあって、
1.動いている人物を描くこと
2.裸に近い人物を描くこと
3.(できれば)ダイナミックな動きを描くこと
の課題をクリアできれば、と思っていました。

しかし、激しく動いている力士を描くのは至難の業でした。
土俵上の彼らを描こうと思っても、一瞬たりとも待ってくれません。

本当はもっとダイナミックな絵を描きたかったのですが、結局、あまり動かずにその場に立っている力士たちを描くしかありませんでした。
(下の小さい絵は、後で思い出しながら描いたものです)

重りを抱える力士
重りを抱える力士
タオルを脇に抱える力士
タオルを脇に抱える力士
四股を踏む力士
四股を踏む力士

しばらくすると、土俵上では「ぶつかり稽古」が始まりました。

これは一人の力士が文字通りの意味で胸を貸し、もう一人の力士が立会いの姿勢から、思いきりぶつかっていきます。
そのまま土俵際まで押し、体勢を変えてからまたぶつかります。

これは体力的に、かなりハードな稽古のようです。

胸を貸す力士は、腕を広げて「さあ来い!」というジェスチャーを取ります。
ぶつかる側の力士は、廻しをポンと強く叩いて気合を入れ(これがいい音がするのです)、思い切りぶつかっていきました。

胸を貸す力士のイラスト
胸を貸す力士のイラスト

しばらくすると、土俵上ではまた申し合いが行われました。
どうやら、この二つの稽古が交互に行われるようです。

9:00頃になると、Tシャツを着た親方が部屋に現れました。
自ずと部屋の中に緊張感が走り、一段と稽古にも熱が入ります。

親方は奥の椅子に座ると、あれこれ指示を与えるのかと思いきや、おもむろにスポーツ新聞を広げて読み始めました。
(しかしここで油断してはいけません。絶対に稽古の様子はしっかりと見ているはずです)

新聞を読み終えたあと、親方は初めて土俵に目を向けました。
しかし彼らに対して細かい指示を与えるのではなく、一言二言「○○じゃなくて、○○だよ!」と言う程度です。

しかしそんな一言でも、元横綱の親方が言うと重みが違うような気がします。
手取り足取り教えるのではなく、本人が気づいて強くなることを考えているのでしょうか。

しばらくすると、土俵上ではまたぶつかり稽古が始まりました。

そんな中、僕はぶつかり稽古をしていた一人の力士(名前は存じ上げないのですが)に対して、スケッチの手を止めて見入ってしまいました。

なぜなら、彼の姿がとても辛そうに見えたからです。

ぶつかり稽古を長時間続けていたので、体力が限界に達したのかもしれません。
彼は喘ぐような呼吸をしており、見ている僕ははらはらしてしまいました。

「そうだ!全部出し切れ!」
「口で呼吸するな、鼻から吸え!」

胸を貸す先輩の力士は、そう励ましています。

ところが、ぶつかる側の力士は、相手にぶつかると同時に自分から転んでしまう場面も見られました。
体中は、土俵の土で真っ黒です。

確かに、このくらいハードにやったほうが強くなれるのかもしれないなぁ…。
でも本当に辛そうだし、ここまでやる必要があるのかなぁ…。

僕はその姿を見て複雑な心境になりました。
何とか無事に終わったときは、心底ほっとしました。

稽古の終わりの時間に近づくと、全ての力士がこちら側に向き、掛け声と共に四股を踏みました。

それから柔軟体操をして(彼らは本当に体が柔らかいのです)、最後はこちら側に一礼して終了。

股割りをする力士
股割りをする力士

時計を見るとまだ10時過ぎです。
実質二時間ほどしか稽古をしていなかったのですが、その密度の高さに驚きました。

僕が今日描いたスケッチをホルダーに片付けていると、おかみさんがやってきて、「どうですか?上手く描けましたか?」と声を掛けてくれました。

僕が今日描いたスケッチを見せると、彼女は「これは○○を描いたの?そっくりね!」と言って、その似ている力士を呼んでくれましたが、僕が描いたのは本当にその人だったのか覚えていませんでした…ごめんなさい。

せっかくなので、その絵にをおかみさんにプレゼントしようと思って、僕の名前を書いていたところ、彼女はいつの間にかどこかに行ってしまっていました。

仕方なく、僕はちゃんこ料理の支度をしていた力士に「おかみさんに渡してください」と言って、今日スケッチした絵と、名刺を一緒に渡しました。

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なかなか満足のいくスケッチは描けなかったのですが、非常に面白い体験ができました。

機会があれば、また来ようと思います(実はもう次の予約も取っています)。

Keisuke

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