模写の授業と秘密の部屋

先日(6月23日)は、セツ・モードセミナーの創始者である長沢節(ながさわせつ)先生の命日でした。

学校ではそれに合わせ、節先生が描いた人物デッサンを模写するという授業が行われました。
この授業は年に一度しかない、特別な機会なのだそうです。

当日は二つのアトリエに、ぐるっと部屋を取り囲むように先生のデッサンが貼られていました。
生徒たちはそれを見て、好きな絵を模写していきます。

服を着た人物のデッサンと、裸体のデッサンがほぼ半々くらいの比率で貼られていましたが、僕は裸体のデッサンを中心に模写していきました。
どうしても、まだ裸の絵には苦手意識があるからです。

模写しているときに気付いたことが、二つあります。

一つは、節先生のデッサンは一本一本の線が長く、線のスピード感があるということ。

僕もそれに倣って、その点を意識して描いてみたのですが、なんとまあ難しいことでしょう!
特に一本の長い線を素早く描こうと思っても、なかなか思い通りにいきません。

もう一つは、節先生のデッサンには「遊び」があること。

例えば、先生は手や足の線はきっちり一本一本描かずに(いい意味で)適当に描いていますが、不思議とそれっぽく見えてきます。

しかし、僕がそれを真似しても、みみずが這ったような線にしかなりません。

描いた枚数は明らかに差があるせよ、この違いはどこから生まれるのだろうと思いました。

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また、別の日の授業の合間には、節先生が暮らしていた建物の最上階に案内されました。

ここは普段は誰も立ち入ることができませんが、特別なときだけ助手の人と一緒に立ち入ることができます。

節先生は、ここで寝起きする生活をされていたそうです。
部屋は、ほぼ先生が使っていたままの状態で残されていました。

入って左に入ったところには、天蓋付きの大きなベッドが置かれていました。

ベッドの横にある箪笥の中には、先生の着ていた服が残されており、その前には十足以上の靴も並べられていました。

今はありませんが、かつて壁には数種類の帽子が掛けられており、先生はまず帽子を選んでからその日のコーディネートをしていたそうです。

別の部屋には、フランス語の講座のテキストや辞書などが並べられていました。
助手の人によると、先生は「一生勉強だ」と言っていたそうです。

この部屋を見て、「ああ、先生は本当にここで生活していたんだなぁ」としみじみ思いました。

もう会うことはできませんが、急に先生が身近なものに感じられました。

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先生の部屋を見学した日の授業は、顔や手足のデッサンでした。

手足のデッサンでは、複数人がペアになり、一人がモデルになってポーズをとります。
他の人はその人の手や足をスケッチしました。

僕がスケッチした絵を置いておきます。

手のデッサン
手のデッサン
足のデッサン
足のデッサン

そういえば、あまり裸足の絵は描いたことがなかったことに、改めて気付かされました。

Keisuke

相撲部屋の見学に行ってきました(二回目)

先日、また相撲の稽古の見学に行ってきました。

前回の稽古が僕にとって非常に刺激的であり、また見てみたいと思ったからです。
今回も予約を取って、前回訪れた八角部屋に再度お邪魔しました。

今回は、前回稽古に参加していなかった力士が参加していました。
彼は他の力士よりも一回り体が大きく、一人だけ白い廻しをつけていたので、
一目で特別な力士だとわかりました。

彼がどうやら幕内に在籍している隠岐の海関のようです。

まず、彼はすり足やバーベルを使った筋トレなどのメニューをこなしました。

次に、ある特定の若手力士に対して、三番勝負(実際にはもっとやっていたけれど)をして、それからぶつかり稽古で胸を貸しました。

ぶつかり稽古はかなり厳しく、正直「そこまでするか!」という印象も受けました。

僕はそれを見ていて、いろいろ思うところはあったのですが、あまり書くと長くなってしまうので、やめておきます。

そのあと隠岐の海関は、先ほど稽古をつけた後輩の力士に、すり足を丁寧に教えていました。

今回描いたスケッチです。

力士のスケッチ1
力士のスケッチ1
力士のスケッチ2
力士のスケッチ2
力士のスケッチ3
力士のスケッチ3

力士たちは動くので難しかったのですが、前回より少しは描けるようになったかもしれません。

Keisuke

風景写生(勝手にリベンジ)

先日、また風景写生に行ってきました。

セツでの風景写生会は、当然ながらとっくに終わっています。

しかし、僕にとって期間内に一枚しか描かなかったのが悔しかったのです。
そのため、リベンジとしてもう一枚描くことにしました。

向かった先は、以前にも記事にしたことのある、近所の自然公園や神社などがある場所の近くです。
(最近はこの周辺ばかりで描いているような…)

訪れた場所
訪れた場所

この場所には、少し前に散歩したときに訪れたことがあります。

ここは水田がある田舎の雰囲気と、家やマンションなどがある都会の雰囲気が、ちょうどいいバランスです。
そのため、いつかこの場所で描こうと思っていました。

当日は晴れて暑くなるとの予報だったので、朝早くに出かけ、8:00からスタートすることにしました。

描きはじめた頃は、座っていたところは日陰でした。
ですが、だんだんと日が移動して、しばらくすると日向になってしまいました。

そのおかげで、描いているときは暑かったです。
(ただ、雨に降られる心配は無かったのですが)

今回は、まず大まかな部分を塗ってから、細部を仕上げるような順序で絵を描きました。

この描き方だと、全体を意識しながら描くことができます。
ただし絵の具を塗り重ねると、どうしても色の鮮やかさが落ちてしまうので、難しいところですね…。

また、自然の多い場所で描いたので虫が多かったです。
蚊はまだ発生していなかったのですが、地面にはアリが這い回っており、たまに僕の体の中に入ってきたので、くすぐったかったです。

6時間ほどかけて、14:00頃に完成しました。

個人的には、前回に描いた火力発電所の絵よりも気に入っています。
これで少しは悔しさが解消されたかもしれません。

完成した絵
完成した絵

最近はペンで緻密に描くよりも、この描き方のほうが気に入っています。

なぜなら、こちらのほうが伸び伸びと描くことができる気がするからです。
ただ、納得のいく作品を仕上げるには、まだ枚数を描かなくてはいけないかもしれません。

後日にセツの助手の人に見せると、おおむね好評だったものの、「まだ見たとおりに描いているので、もっと崩してもいいよ」と提案されました。
例えば、マンションの角度などを変えてしまってもいいそうです。

でも、崩すことによってその絵がより良くなるのかどうか、僕の中で見当が付かないのですよね…。
どうしたものでしょうか。

Keisuke

相撲部屋の見学に行ってきました

先日、東京の両国に行ってきました。
相撲部屋を訪れ、稽古の見学をするためです。

これを読んでいる人は「なぜ唐突に行こうと決めたの?」と疑問に思うかもしれません。

きっかけは数年前に見た、ネットでの書き込みです。
はっきりした文面は覚えていないのですが、そこにはこんなことが書かれていました。

「とあるイラストレーターは、画力向上のために相撲部屋を訪れてスケッチしている」

それを見たときは「ふーん」といった程度の感想しか浮かばず、特に意識していなかったのですが、心のどこかでそれがずっと引っかかっていたようです。

それが最近になって、ふっと頭に浮かんできました。
そして「今なら行けるかもしれない」と考えたのです。

また、最近はセツで人物デッサンの授業を受けて、少しずつ自信を持てるようになってきたので、ある程度なら描くことができるのではないか、と考えた面もあります。

とは言っても、大相撲については最近はあまり熱心に見ていません。

15~20年ほど前に若乃花・貴乃花などの力士が活躍していた頃は、家族でよくテレビ中継を見ていました。

しかし、彼らが引退して朝青龍白鵬が活躍し始めた頃から、だんだん相撲から興味を失ってしまいました。

それでも完全に興味がなくなったわけではありません。
最近は新聞で勝敗を見る程度ですが、やっぱり僕にとってなじみの深いものだと思います。

さて、相撲部屋が見学できるといっても、いつも見られるとは限りません。
力士たちは年六回の本場所や地方巡業などがあり、何かと忙しいからです。

そんな中、六月は大きなイベントもなく、見学のしやすい月だと言われています。
(月末になると来月に名古屋場所が開催されるため、移動してしまいますが)

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実は以前にも一度見学をしようと思って、相撲部屋に足を運んだことがあります。

事前に見学についてネットで調べたところ、とあるサイトにはこう書かれていました。

「当日に部屋を訪れてインターホンを押し、見学に来たことを伝えればOK!」

そのため、僕は予約をすることなく、そのままふらっと出かけていきました。

特にお目当ての力士がいるわけでもないので、見学可能な四部屋をピックアップし、順に回っていくことにしました。

そのうちの一部屋くらいは見学させてくれるだろう、と甘く見積もっていたからです。

しかし、一部屋はインターホンを押しても返事が無く、一部屋は予約が必要で、残りの二部屋は来客のため見学を断られてしまいました。

結局、この日はどこも見ることができず、がっかりしながら帰りました。
(このときは持ってきていた折り畳み傘を壊してしまうなど、散々な日でした…)

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そこで今回は予約を取って、指定の日時に訪れることにしました。
お邪魔させてもらったのは「八角部屋」です。

この部屋は、元横綱の北勝海(ほくとうみ)が現在の親方を務めており、最近では幕内で隠岐の海(おきのうみ)関が活躍しています。

相撲の稽古は朝早くから始まり、午前中には終了してしまいます。
そのため、当日は早起きして両国駅まで電車で向かいました。

駅の構内には、優勝力士が描かれた巨大な絵が飾られていました。
これは「優勝額」と呼ばれるもので、国技館の四方を取り囲むように飾られているものです。

僕はこれは写真だと思っていたのですが、実際には絵だったのですね。
(現在は印刷技術の向上もあり、カラー写真になっているそうです)

白鵬と武蔵丸の優勝額
白鵬と武蔵丸の優勝額
力士の手形
力士の手形

駅のすぐそばには大相撲の本場所が開かれる両国国技館があり、その周りには相撲部屋や、ちゃんこ料理屋が点在しています。

まさにここは相撲一色という場所なのです。

八角部屋は駅から約10分ほど歩いた、下町の中にあります。
8:00頃に部屋のある建物の前に到着しました。

八角部屋の入り口
八角部屋の入り口

扉を開け、出迎えてくれた人(力士の曲げを結う床山さん?)に名前を告げると、彼は快く案内してくれました。

見学者の中では、僕が一番乗りだったようです。

玄関で靴を脱いで廊下を渡り、稽古場の引き戸を開けます。
そこには、稽古用の黒い廻しを締めた20名ほどの力士たちの姿が。

「おお、やってるやってる!」と期待が高まります。

力士の稽古場から一段高くなったところには、見学者用の座布団が横一列に並べられていました。

床山さんに奥から詰めるように指示されたので、一番右に座って見学することにしました。

僕が少し緊張して正座していると、力士の一人が「足を崩しても構いませんよ」と話しかけてくれました。
なんだか彼はすごくいい人です(笑)

稽古場の中央には土俵があり、黒い土が薄く敷かれています。

見学者席と土俵との距離は非常に近く、手を伸ばしたら力士に触れることができそうな程でした。
(実際にやってはいませんよ!)

僕が到着したときには、まだ稽古は始まったばかりだったのですが、部屋の中は力士の熱気でムンムンでした。

この日はそれほど暑くなかったのに、すでに大粒の汗をかいている力士もいます。

土俵上では、「申し合い」という勝ち抜き戦が行われていました。
これは二人の力士が土俵上で勝負をして、勝った力士はそのまま土俵に残り、別の力士たちの挑戦を受ける、という稽古です。

挑む力士は勝負が終わると「おいっす」と言って手を挙げ、勝ち抜いた力士に挑戦します。

その周りを力士たちが取り囲んでいました。

彼らは土俵での稽古の様子を眺めたり、重りを抱えながらすり足をしたり、部屋の角の柱に向かって「てっぽう(突き押し)」をしたり、四股を踏んだりしていました。

上から見た図
上から見た図

しばらくすると、他の見学者たちもぞろぞろとやってきました。

その中には通訳の日本人をつれた外国人らしき姿も見えました。
今、やはり相撲は海外でも注目されているのでしょうか。

僕はしばらく稽古の迫力に圧倒されてしまいましたが、当初の目的を思い出し、紙と鉛筆を取り出してスケッチをすることにしました。

一応、今回の狙いは三つあって、
1.動いている人物を描くこと
2.裸に近い人物を描くこと
3.(できれば)ダイナミックな動きを描くこと
の課題をクリアできれば、と思っていました。

しかし、激しく動いている力士を描くのは至難の業でした。
土俵上の彼らを描こうと思っても、一瞬たりとも待ってくれません。

本当はもっとダイナミックな絵を描きたかったのですが、結局、あまり動かずにその場に立っている力士たちを描くしかありませんでした。
(下の小さい絵は、後で思い出しながら描いたものです)

重りを抱える力士
重りを抱える力士
タオルを脇に抱える力士
タオルを脇に抱える力士
四股を踏む力士
四股を踏む力士

しばらくすると、土俵上では「ぶつかり稽古」が始まりました。

これは一人の力士が文字通りの意味で胸を貸し、もう一人の力士が立会いの姿勢から、思いきりぶつかっていきます。
そのまま土俵際まで押し、体勢を変えてからまたぶつかります。

これは体力的に、かなりハードな稽古のようです。

胸を貸す力士は、腕を広げて「さあ来い!」というジェスチャーを取ります。
ぶつかる側の力士は、廻しをポンと強く叩いて気合を入れ(これがいい音がするのです)、思い切りぶつかっていきました。

胸を貸す力士のイラスト
胸を貸す力士のイラスト

しばらくすると、土俵上ではまた申し合いが行われました。
どうやら、この二つの稽古が交互に行われるようです。

9:00頃になると、Tシャツを着た親方が部屋に現れました。
自ずと部屋の中に緊張感が走り、一段と稽古にも熱が入ります。

親方は奥の椅子に座ると、あれこれ指示を与えるのかと思いきや、おもむろにスポーツ新聞を広げて読み始めました。
(しかしここで油断してはいけません。絶対に稽古の様子はしっかりと見ているはずです)

新聞を読み終えたあと、親方は初めて土俵に目を向けました。
しかし彼らに対して細かい指示を与えるのではなく、一言二言「○○じゃなくて、○○だよ!」と言う程度です。

しかしそんな一言でも、元横綱の親方が言うと重みが違うような気がします。
手取り足取り教えるのではなく、本人が気づいて強くなることを考えているのでしょうか。

しばらくすると、土俵上ではまたぶつかり稽古が始まりました。

そんな中、僕はぶつかり稽古をしていた一人の力士(名前は存じ上げないのですが)に対して、スケッチの手を止めて見入ってしまいました。

なぜなら、彼の姿がとても辛そうに見えたからです。

ぶつかり稽古を長時間続けていたので、体力が限界に達したのかもしれません。
彼は喘ぐような呼吸をしており、見ている僕ははらはらしてしまいました。

「そうだ!全部出し切れ!」
「口で呼吸するな、鼻から吸え!」

胸を貸す先輩の力士は、そう励ましています。

ところが、ぶつかる側の力士は、相手にぶつかると同時に自分から転んでしまう場面も見られました。
体中は、土俵の土で真っ黒です。

確かに、このくらいハードにやったほうが強くなれるのかもしれないなぁ…。
でも本当に辛そうだし、ここまでやる必要があるのかなぁ…。

僕はその姿を見て複雑な心境になりました。
何とか無事に終わったときは、心底ほっとしました。

稽古の終わりの時間に近づくと、全ての力士がこちら側に向き、掛け声と共に四股を踏みました。

それから柔軟体操をして(彼らは本当に体が柔らかいのです)、最後はこちら側に一礼して終了。

股割りをする力士
股割りをする力士

時計を見るとまだ10時過ぎです。
実質二時間ほどしか稽古をしていなかったのですが、その密度の高さに驚きました。

僕が今日描いたスケッチをホルダーに片付けていると、おかみさんがやってきて、「どうですか?上手く描けましたか?」と声を掛けてくれました。

僕が今日描いたスケッチを見せると、彼女は「これは○○を描いたの?そっくりね!」と言って、その似ている力士を呼んでくれましたが、僕が描いたのは本当にその人だったのか覚えていませんでした…ごめんなさい。

せっかくなので、その絵にをおかみさんにプレゼントしようと思って、僕の名前を書いていたところ、彼女はいつの間にかどこかに行ってしまっていました。

仕方なく、僕はちゃんこ料理の支度をしていた力士に「おかみさんに渡してください」と言って、今日スケッチした絵と、名刺を一緒に渡しました。

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なかなか満足のいくスケッチは描けなかったのですが、非常に面白い体験ができました。

機会があれば、また来ようと思います(実はもう次の予約も取っています)。

Keisuke

風景写生会!

先日、セツでは風景写生会が行われました。

これは、「外に出て絵を描こう!」という試みで、その際は通常の授業がお休みになります。
期間中(6/12~6/16)であれば何枚描いても構いません。

また、期間中には助手と生徒たちが一ヶ所に集まって描く機会が設けられました。

集合場所は僕の地元である横浜で、山下公園や港の見える丘公園で描くことになっていました(もちろん、写生する場所に制約はなく、家の近所や室内でも構いません)。

紙はこの前の人物水彩と同じく、四六判半切(545mm×788mm)サイズです。

これはかなりサイズが大きいので、普段僕がスケッチブックに描くのとは異なり、折りたたみ式のイーゼル(絵を立てかけるもの)や、大きな画板などが必要になります。
一応、この日のためにそれらのスケッチ用具を用意しておきました。

しかし、僕はこの前の人物水彩の一件もあり、なかなか絵を描くモチベーションが上がりませんでした。

絵を描いたとしても、どうせたいした作品にならないだろう。

そういうネガティブな感情が頭を渦巻いており、どうしても一歩外に踏み出す気になれなかったのです。

そんなわけで、せっかく助手が用意してくれた横浜のツアーにも参加せずに、ずっと自宅に引きこもり一枚も絵を描いていませんでした。

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そして迎えた最終日。

「ここで描かなくては、自分はだめになる!」と言い聞かせて、無理にでも外に出て描くことにしました。

スケッチ用具をスペインの巡礼に行ったときに使った40リットルの大型のリュックにつめ、えいやっと重い腰を上げ出発しました。

天気は曇りで、今にも雨が降りそうでした。
しかも、途中で道を間違えて大幅に時間をロスしてしまい、ますます気持ちは暗くなっていくのでした。

ようやくのことで目的の場所に到着し、スケッチ用具を広げてスタート。
場所は「描くとしたらここしかない」と決めていた、横浜の磯子にある火力発電所の近くです。

発電所の建物は海に面しており、その対岸は波止場になっています。
あまり綺麗な海ではありませんが、魚も泳いでいるらしく、ここで釣りをしている人もいました。

僕はこの波止場から見える発電所の煙突が好きで、以前にも二回ほどここに来てスケッチしたことがありました。
(正確に言うと初めての場所ではないので、ちょっとずるかったかもしれません)

以前描いたスケッチ(ペン画)
以前描いたスケッチ(ペン画)
以前描いたスケッチ(透明水彩)
以前描いたスケッチ(透明水彩)

しかし実際に描き始めてみると、色が上手く決まりません。
ネガティブな感情になっていたせいもあってか、半ばやけくそになって、もともと灰色だった空を紫色で塗ってしまいました。

途中で「ああぁ、この色は失敗したかなぁ」と思いながらも、ここで止めるわけにはいかないので、しぶしぶ作業を続けました。

そんなこんなで、どうにか完成した絵はあまり満足のいく出来ではありませんでした。

紫の空の上から絵の具を塗りつぶすように建物を描いたため、全体的に色味がくすんで見えます。

これは僕が理想とする「人の心を和ませる絵」とは程遠く、かえって心の中がうすら寒くなるような絵になってしまいました。

今回描いたスケッチ
今回描いたスケッチ

本当はもっと透明感のある絵を描きたいのですが、「下描きなし」という制約があると、透明感を出すのは非常に難しいんですよね…。

どうしても、不透明な絵の具を重ねた厚塗りになってしまいます。

僕はがっかりした気持ちになりました。

それでも「とりあえず最低限のことはやった!これで講評会に出せる!」と自分自身を納得させ、片付けてから帰路に着きました。

心配していた雨は、途中でぱらつくことはありましたが、本格的に降ることはなくてよかったです。

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そして、翌日にセツの校内で合同講評会が行われました。

生徒たちは期間内に描いた絵を持ち込み、一室のアトリエにずらりと貼り出します。
中には一人で八枚の絵を描いた生徒もおり、自分のしょぼさが目に見えました。

並んだ絵はどれも個性的です。
助手はそんな絵に対して、一人ひとり講評をつけていきました。

僕はそれを聞きながら、「ああ、悔しい!やる気が出ないのにかこつけて、サボっていた自分が恥ずかしい!」という思いにとらわれていました。

そして迎えた僕の絵の番。
助手は僕に対して、描いた場所や時間帯などの質問をしました。

「空の紫色がいいわね。一枚しか出していないから本当はいけないけれど、Aです!」

Aというのは最高の評価です。
僕は思わず内心で「エエエェェ(゚Д゚)ェェエエエ」と唖然としてしまいました。

なぜなら、空の色がこの絵で最も良くない部分だと思っていたからです。
「実際のものとはちがう、大胆な色使い」が評価されたのでしょうか。

この前の人物水彩のときは、最も気に入っていた「顔」がダメ出しされましたが、今回は最も気に入っていない「空」が評価されたというのは、どういうことなのだろうと思いました。

そしてAの評価を受けた作品は、ロビーに貼り出されることになりました。
本当は、あまり貼り出して欲しくない絵だったのですが…。

前にも描きましたが、もちろん良い評価を得るために絵を描いているのではありません。
(でもこのことを書いている時点で、評価のことを気にしているのかも?)

それでも、こき下ろされることを覚悟していたので、それに比べればずっと嬉しいです。

目をつぶってバットを振り回したら、偶然ボールが当たってヒットになったような気分でした。

そして、ヒットを打つためには、数多くバットを振らないといけません。
偶然でもヒットになるように、もっと枚数を描かないといけないと肝に銘じました。

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この文章を書いていてふと思ったのですが、もしかしたら「大胆に描く」ということは、僕にとって必要なことなのかもしれません。

なぜなら僕が普段スケッチするように、ちまちまと緻密に描くことにはおのずと限界があるからです。
下手をするとその「枠」の中に閉じこもって、それ以上世界が広がっていかないのです。

また、細かく描こうとすればするほど、失敗を恐れるようになってしまうのかもしれません。

僕がセツを選んだ理由の一つに、「その『枠』を壊して精神的に自由になりたい」という欲求があり、ここならそれを叶えられるかもしれない、という狙いがあったのです。

もちろん、緻密に描くことも捨ててはいけません。
緻密に描けば描くほど、作品としての密度が上がるからです。

ですが、その一方で大胆に描くのも時には必要なのかな、と思いました。

写生大会の期間は過ぎてしまったのですが、またどこかに出かけて、この描き方でスケッチするかもしれません。

そのときはもっと自由に、失敗を恐れず、伸び伸びと描こうと思います。
自分自身の「枠」を壊すために。

Keisuke