先日(と言ってもずいぶん前ですが)、僕が2Q生になってから初めてセツで「ファッションイラストを描く」という課題が出されました。
これは、毎回あるテーマを基にして、ファッションに関連したイラストを描いてくるというものです。
以前には、「昭和の日本」や「映画」をテーマにして課題が出されたそうです。
今回のテーマは、「60年代後半~70年代前半のオールドファッションを描く」という内容でした。
テーマに沿った内容なら、紙の大きさや枚数、画材などは全て自由です。
この年代の特徴として、女性の間ではポップで華やかな色使いのワンピースやミニスカート、男性の間ではヒッピーやモッズと呼ばれるファッションが流行していました。
最近は、この年代のファッションのリバイバルブームが起こっているそうです。
一週回って逆に新しいファッションだと言えるでしょう。
しかし、課題が発表されたときに僕は困ってしまいました。
なぜなら、僕はあまりファッションに興味がないからです。
服は必要最低限の分しか持っていないし、気付いたらずっと同じ服ばかり着ていることもあります。
でも、こんなことを、もし節(せつ)先生がご存命のときに言っていたら、ものすごく怒られたに違いありませんが…。
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さて、それに先立ってセツでは「ファッションイラストエスキース」という授業が行われました。
「エスキース」というのは、フランス語で下絵のことです。
この下絵を基にしながら、新たにファッションイラストに描き起こします。
当日は男女二人のモデルさんが、その年代の衣装を着てポーズを取ってくれました。
彼らが着ていた衣装は、最近発売された復刻版ではなく、当時、実際に販売されていたビンテージ物なのだそうです。
彼らは二部屋に分かれ、いつものように合計で12ポーズ取ってくれました。
女性のモデルさんが着ている服は、非常にカラフルで人目を引きます。
また、男性のモデルさんは、ギターを持ってポーズを取ってくれました。
当日は色鉛筆とペンを持っていたため、色も少し塗ってみました。
こんな感じです~。
さて、僕はこの下絵を再構成するに当たって、どうしようか考えました。
ただ別の紙に清書するだけでは、面白くないなぁ…
もう少し、オリジナリティを出せないだろうか?
その結果、絵の中にストーリー性を持たせることを思いつきました。
僕が考えたのが、以下のような場面です。
恋に破れ、場末のバーで酒を飲む一人の女性がいた。
そこに、ギターを持った男性が現れる。
男性「僕の演奏を聞いてくれない?」
女性「あら、すてき!」
彼は椅子に腰掛けると、ポロンポロンとギターを爪弾き始めた。
男性「どうだった?」
女性「あまり上手くないのね」
…というストーリーを考えてみました。
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というわけで、僕は背景の取材のために、地元のバーに足を運んでみることにしました。
学校への行き帰りのときに、いつもこのバーの横を通ります。
その際に「雰囲気が良さそうだなぁ」と感じていて、今回取材することにしたのです。
僕が事前に電話して「店内の写真を撮ってもいいですか?」と聞くと、バーのオーナーは快くOKを出してくれました。
本当にありがとうございます!
僕はお酒をほとんど飲めないので、こういった店にはほとんど縁がありません。
そのため、入るときは緊張してしまいました。
このバーは、昼はスペイン料理、夜はお酒を出しているところです。
僕はお昼に行ったので、まだ店は空いていました。
僕はオーナーに再度確認して、店内の写真をたくさん撮りました。
店内はワンフロアで、テーブル席とカウンター席とがあります。
シックな木材が中心に使われ、お洒落な雰囲気です。
カウンターの上には、小さなクリスマスツリーが置かれていました。
僕は「ただ写真を撮っているのも悪いなぁ」と思ったので、撮り終えた後にカウンターに座り、オレンジジュースを注文しました。
カウンターには一人の中年の男性客が座っていました。
彼はひげを生やし、長い髪をポニーテールにしてまとめていたので、「笑い飯」の西田幸治さんに雰囲気がそっくりでした。
彼は僕に話しかけてくれたので、挨拶をして話をすることにしました。
彼はこのバーの常連客で、普段は地元で水道管の工事をしているのだそうです。
(今日は仕事が休みだと言っていました)
この日は学校が休みだったため、つい長話をしてしまいました。
いつの間にか、僕は彼の子供の進路相談まで受けてしまったのですが、長くなるのでここでは割愛します。
途中で、オーナーの奥さんと子供たちも店に来ました。
子供たちは、オーナーの手料理をご馳走になっていました。
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さて、僕はエスキースと店内の写真を基にして再構成し、一枚のイラストに仕上げることにしました。
「できるだけ大きな紙に描きたいなぁ」と思って、四六判半切という人物水彩を描くときのサイズの紙に描くことにしました。
描き始める前に、僕は別の紙に下描きをしました。
ただ、大きい紙だったので、人物の体のバランスを取るのが難しかったです。
特に女性の足は、何度も描き直すことになってしまいました。
下描きをしたあと、本描きのほうに移ります。
しかし、完成した作品は、僕自身でも納得の行く仕上がりにはなりませんでした。
(やっぱり、少し雑に見えますねぇ…)
「まあ、それでも出さないよりはよっぽどマシだ」と考えて、乱暴ですがこれで提出することにしました。
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後日、アトリエの一室で講評会が行われ、壁一面に生徒たちが描いた作品がずらりと並べられました。
どの作品も非常に個性的なものばかりです。
M先生は、それらに対して一作品ずつ講評していきました。
僕の作品の番が回ってくると、彼女はこんなことを言ってくれました。
「ファッションイラストから離れて、想像の世界の絵なのが面白いですね。
それから、自分の足で取材をするというのも大事なことです」
確かに、周りの人はお洒落な絵を描いている人が多かったです。
僕の絵をファッションイラストとして見た場合は、少しずれているのかなぁ…という気がします。
でも、もともと「自由に描いていいよ」と言われていたので、これはこれでありなのではないでしょうか。
M先生は、僕の作品に最も良いAの評価を付けてくれました。
(と言っても、今回はほとんどの人がAの評価をもらっていたのですが…)
Aの評価を受けた作品は、セツのロビーに一定期間貼り出されます。
僕は嬉しかったのですが、「本当にこれでよかったのかなぁ」と、今でも少し疑問に思っています。
Keisuke