先日、長新太(ちょうしんた)さんの「没後10年 長新太の脳内地図」展を見るため、横須賀美術館に行ってきました。
長さんは日本を代表する絵本作家で、今までに数多くの絵本を残しています。
既に亡くなられた人ですが、今回は没後10年に合わせて大規模な展覧会が開かれました。
//////////////////////////////
長さんは描いた絵本の数が多いため、「これが代表作!」と挙げるのは難しいです。
しかし、その特徴はとにかくぶっ飛んでいることです。
どこがどうぶっ飛んでいるのかというと、「シュール」「ナンセンス」という言葉に尽きます。
例えば「ゴムあたまポンたろう」(リンク先は「絵本ナビ」です)という絵本では、主人公の頭がゴムで出来ているので、どんなに強くぶつかっても痛くありません。
彼は世界中を頭でバウンドしながら旅をしていきます。
途中で、頭がバットになっている大男のフルスイングを受けたり、バレーボールをしている木々たちにふっ飛ばされたりするなど、なかなかひどい目に遭っているのですが、それでも楽しそうです。
それから「つきよのかいじゅう」という絵本もあります。
十年間、湖から出現するという怪獣の撮影を狙っている男がいた。
ある月夜の晩、ついにその姿が現れた。しかし、その正体とは…。
…って、これって一発ネタじゃないか(笑)
この展開を予想できた人は、どれだけいるのだろう…。
また、「ブタヤマさんたらブタヤマさん」という絵本もあります。
これは、豚のブタヤマさんが蝶を追いかけるのに夢中で、後ろから何が来ても全く気付かない…という内容です。
ありえないほど巨大な鳥や魚が背後に迫っているのに、ブタヤマさんは全く気付きません。
思わず、「志村ー!後ろ後ろ!」と言ってしまいたくなります。
(多分このネタなら、わかってくれる人が多いですよね?)
ちなみに、心理学者の河合隼雄さんが、この絵本のことを著書の中で取り上げていました。
ブタヤマさんの行動と心理学者のことを絡めて書いていたので、「そこまで読み解くのは、少し深読みのしすぎかも」と思ったのですが…。
//////////////////////////////
さて、僕が長さんの絵本を知ったのは…いつ頃になるのでしょうか。
僕が物心付いた頃から精力的に活動されていた人なので、多分目にしていたと思うのですが、あまりよく覚えていないのです。
もしかしたら、当時はそれほど好きではなかったと言えるのかもしれません。
僕が彼の世界に虜になったのは、大人になってからです。
きっかけは、十年以上前に北海道を自転車で旅行していたときのことです。
剣淵(けんぶち)という町を訪れたとき、「絵本の館」という図書館があったので入ってみると、そこに長さんの特集コーナーがありました。
何気なく絵本を手に取って読んでみると、「うわ、こんなに面白いんだ!」とびっくりしました。
子供の頃にはあまり面白さがわからず、大人になってから面白さがわかるというのも変な話なのですが…。
また、以前に横浜そごうの美術館で開催されていた、回顧展にも行ったことがあります。
そのときに「四コマ漫画を作ろう!」というコーナーがあり、僕も試しにシュールな内容で応募してみたら、入賞したことがあります。
その賞品として、長さんの四コマ漫画集を貰いました。
この内容もとても面白いのですが…きりがないのでやめておきます。
//////////////////////////////
さて、僕はこの展示を楽しみにしていたのですが、なかなか時間が取れなかったので、結局行ったのは最終日になってしまいました。
会場は横須賀の観音崎(かんのんざき)にある横須賀美術館です。
当日は文化の日だったため、無料で館内に入ることができたのです。
(前日までそのことを知らなかったのですが…)
ただ、「休日」+「最終日」+「無料」の条件が重なっていたので、「中はとても混雑していないかなぁ…ちゃんと見られるかなぁ」と不安でした。
これだったら、お金を払ってでも別の日にしたほうが良かったかも…。
//////////////////////////////
さて、観音崎に行くため、まずはJRの横須賀駅に向かいます。
駅を降りると、巨大な灰色の艦船が何隻も港に停泊していました。
詳しい人なら種類もわかると思うのですが、僕には全くわかりません。
そこからバスで美術館を目指しました。
京急の馬堀海岸駅前のバス停でたくさんの人が乗ってきたので、車内はすし詰め状態です。
僕はますます館内が混雑していないか不安になりました。
でも、当日は観音崎でイベントがあるので、それに参加する人たちも多かったようです。
(アイドルグループが出演するとか!)
「観音崎京急ホテル・横須賀美術館前」で下車し、バス停から五分ほど歩くと美術館に到着しました。
美術館の前は広い一面の芝生で、目の前は海という最高のロケーションです。
でも、観音崎ってかなり行きにくい場所にあるのですよね…。
どうしてこんな辺鄙(へんぴ)な場所に、立派な美術館を建ててしまったのやら。
芝生では親子連れの人たちが、シートを広げて食事をしていたり、遊んでいたりしています。
時計を見ると午前11時半ごろになってしまったため、僕も近くの椅子に腰掛けて昼食をとってから館内に入りました。
入り口には、長さんの絵本の一場面を拡大した、猫がたくさん描かれている巨大なパネルが置かていました。
その一部は切り抜かれて、顔を出せるようになっています。
子供たちがそこで入れ替わり立ち替わり顔を出し、その親が記念撮影を行っていました。
受付で無料のチケットを渡され、展示場の中に入ります。
そこでは、長さんが今までに描いた絵本の原画が、テーマごとに分けられて展示されていました。
中は親子連れの人たちで混雑していましたが、全く見られないということはありませんでした。
ただ、子供は騒がしいので「もう少し静かに見られたらなぁ…」という思いもありましたが…。
こら、そこの子、展示物に触っちゃダメだってば。
指をさしたくなるのはわかるけど…。
また、パネルに書かれた文字を音読している母親もいました。
長さんの絵本は、文章のリズムがいいことも特徴として挙げられるので、声に出して読んでも楽しいのですよね。
それから、彼の作品は色彩が鮮やかなのが特徴的です。
中には、ピンク色の空やオレンジ色の地面など、目が痛くなるほどの原色を使っている作品もあります。
本当に長さんは自由に描いていることが伝わってきました。
彼の絵を見ていると、僕も「もっとぶっ飛んだ絵を描いてもいいのかもしれない」と思うようになります。
さらに作品を見ていくと、長さんが絵本デビューした頃に描かれた、「がんばれ さるの さらんくん」という絵本の原画が展示されていました。
動物園で動物たちが楽器を演奏して、オーケストラを開く計画を立てました。
でも、さらん君が担当するトランペットは難しく、なかなか上手く吹けません。
彼は一度練習を投げ出してしまうのですが、女の子と仲良くなって、一緒に練習をするうちに上達していきます。
そんなとき、動物園で火事があって…。
という内容です。
ですが、この作品では、まだ長さんの特徴が出ているとは言えません。
色は抑え気味で、線も硬い感じがします。
直線を多く使って、しゃっちょこばっている…とでも言うのでしょうか。
また、その近くには「おしゃべりなたまごやき」という絵本の原画が展示されていました。
(文章は寺村輝夫さんです)
この絵本は、昔のバージョンとそれをリメイクした新しいバージョンの二種類があります。
今回は両方の絵が展示されており、それぞれ比較できるようになっています。
やはり、昔の絵よりも新しい絵のほうが、色彩も鮮やかでずっと魅力的です。
長さんは作品を作るにしたがって、自分の枠を壊して、どんどん精神的に自由になっている印象を受けるのですよね。
また、途中には彼の描いた絵本が置かれているコーナーがあり、実際に絵本を手に取って読むことができました。
そのコーナーはじゅうたんが敷いてあり、母親が子供に読み聞かせをしていたり、子供が親に「これを読んで!」と言ったりしています。
僕も靴を脱いでじゅうたんに上がり、なるべく邪魔にならないように部屋の隅っこに座ると、親子連れの人たちに混ざって読みました。
展示物の絵は全ての絵が展示されていたわけではなく、一部の絵しか展示されていなかったので、その結末が気になる作品がたくさんあったからです。
半分ほど読むと、「もういいかな」と思って立ち去ったのですが、そのあとにまた気になる作品が展示されていると、またそのコーナーに戻って読みました。
そんなことをしているうちに、最終的には置かれているほとんどの本は読んでしまいました。
展示の最後のほうには、漫画やエッセイなども置かれていました。
もともと長さんは、漫画家としてデビューしました。
そのため絵本を読んでいると、たまに「シュールな漫画みたいだ」と思うこともあります。
彼の作品はアイデアの時点ではもっと過激なようですが、練っていくうちに、ある程度わかりやすい形に落ち着くのだそうです。
それから、彼は「ありとあらゆるものに生命が宿っている」という、アニミズムという考え方が好きなのだとか。
僕も不思議なキャラクターを考えるのが好きなので、一緒だなぁと思いました。
長さんの展示は、合計で二時間ほど見ていたでしょうか。
/////////////////////////
全て見終わったあとは、常設展のほうにも足を運んでみました。
こちらは、いわゆる普通の美術館に展示されている絵、という感じです。
あまり印象に残る絵はなかったので、さらっと見てすぐに出ました。
ちなみに、抽象画的な絵は「わかる」とか「わからない」とかよく言われますが、個人的には、絵は好き嫌いで判断してしまってもいいと思います。
あまり好きでなければ、「はい次!はい次!」と飛ばしてしまっても構いません。
(そのかわり、ピンと来たものがあれば、立ち止まってじっくり見ていますが)
次に、別館にある谷内六郎さんの展示場にも足を運びました。
彼は、田舎の子供を数多く描いています。
「どこかで見たような気がするなぁ…」と思っていたら、以前に週刊新潮の絵を長い間担当されていた人なのですね。
結局、全ての美術館を合わせると三時間ほど見ていました。
//////////////////////////////
それから、まだ時間があったので、美術館を出て観音崎の岬の方向に向かいます。
しばらく歩くと、海が見下ろせる高台になっている場所を見つけました。
海の向こうには、小高い山になっている岬が見えます。
その頂上には白いタワーのようなものが見えました。
このときは、この建物のことを観音崎灯台だと思い込んでいたのですが、あとで調べてみると、これは「東京湾海上交通センター」と呼ばれる建物のタワーだそうです。
小さなスケッチブックと透明水彩・筆を持ってきていました。
せっかくだからそこに腰を下ろし、スケッチすることにします。
当日は観音崎公園でイベントが行われていたので、縞模様のテントが見えました。
「屋台が出ているのかな?」と思いましたが、詳しいことまではわかりません。
近くには、横須賀湾を周遊するフェリー乗り場がありました。
当日は休日だったので、たくさんの人が乗り込むのが見えます。
出発するときは、びっくりするほど大きな警笛を鳴らしていました。
あまり時間がなかったので、なるべくせっせと描きました。
この時期になると、日が落ちるのが早くなりますし。
結局、午後2時半過ぎから午後4時過ぎまで、一時間半ほどで描き終えました。
それから、帰りのバスは混雑すると聞いていたので、京急の馬堀海岸駅まで歩いて向かいます。
途中で寄り道をしながら、一時間ほどで馬堀海岸駅に到着し、電車で帰りました。
//////////////////////////////
そうそう、お土産に「ごろごろ にゃーん」という絵本を買いました。
これは、僕が(現時点で)長さんの中では一番気に入っている本です。
トビウオのような形の魚型の飛行機が、猫を乗せて飛んでいくという内容で、特にこれといったストーリーはありません。
文章も「ごろごろ にゃーん ごろごろ にゃーん と、ひこうきはとんでいきます」の繰り返しです。
母親に見せたところ「なにが面白いのかわからない」と言っていましたが、僕はそのわからなさも含めて好きな作品です。
Keisuke