5月21日(水) マンシージャ・デ・ラス・ムラス(0.0km)

 今日も女性の医者に言われたように、一日宿で休むことにした。
 みんなが出発した後ベッドで横になっていると、強い空腹を感じてきてしまった。どうやら少しずつ体調が戻っているようだった。
 9:30頃、あまりにも空腹だったので、3日前冷蔵庫に入れたままのヨーグルトがあったことを思い出し、ベッドから起きだしてキッチンに向かった。そこには初対面の女性のオスピタレロがいた。僕は冷蔵庫を開けてヨーグルトを探してみたけれど見つからなかった。その代わり別のヨーグルトがあったので、それを食べていいか女性のオスピタレロに聞いてみた。
 彼女は「いいわよ」と言うと、さらに冷蔵庫に入っていたパンを渡してくれた。しかし医者に渡された「注意書き」によると、パンは推奨品にも非推奨品にも入っていなかった。僕が戸惑ったような仕草を見せると、僕に「いいから、いいから」と言うようにパンを突き出してきた。しかし僕はそれを食べていいのかわからなかったので、「注意書き」を渡してそのことを伝えると、彼女はアレックスさんを呼んでくれた。
 アレックスさんにお腹が空いたことを伝えたら、今日は鶏肉のササミをフライパンで焼いたものを作ってくれた。彼によると、鶏肉も胃腸に良いとのこと。油を使わずに塩とハーブだけで味付けしたものだったが、とてもおいしかった。余った鶏肉は冷蔵庫に入れておくので、お腹が空いたら自分で作って食べていいとのことだった。
 それからアレックスさんと少し話をした。彼は今67歳で、妻のアンさんと共に英国から来たらしい。道理ですごく英語がわかりやすいと感じた。
 彼に「いつ日本に戻るの?」と聞かれたので、「6月13日に戻る予定です」と答えると、「それだったら今からでもサンティアゴに十分到着できるよ」と言ってくれた。さらに僕がわがままにも「でもそれからフィステーラにも行きたいんです」と伝えると、彼はサンティアゴからフィステーラまではバスも出ていることを教えてくれた。僕はフィステーラまで歩いて行きたかったけれど、最悪バスでもいいかもしれない。
 今日は雨が降ったり止んだりで、寒かった。ずいぶん体調も良くなってきたし、頭痛もなくなってきたので、明日出発するつもりだった。しかしこの汚い格好のまま出発するわけにもいかないので、汗をかいてそのままだった下着を洗濯し、寒かったけれど思い切ってシャワーを浴びた。
 15:00頃また空腹を感じてきたので、余っていた鶏肉のササミを冷蔵庫から取り出し、自分で焼いて食べた。
 その後はアレックスさんが夕食を作ってくれるとのことだったので、ベッドで横になっていた。20:30頃にアレックスさんが部屋にやってきて、僕を呼んだ。彼と一緒にキッチンに降りていくと、彼は「前よりもずっと歩き方がしっかりしてきたな」と言ってくれた。
 その後アレックスさんはキッチンが空いたのを見計らって、米のスープに鶏肉を切ったものを入れた料理を作ってくれた。多く作りすぎた分は冷蔵庫に取っておき、明日の朝暖めて食べてよいとのこと。ついでにアルベルゲに置かれていたお米も少し頂いた。
 それから僕はアレックスさんたちがいるオスピタレロが集まっている部屋に行き、三日間お世話になったことと、明日出発することを伝えた。その部屋にはアレックスさん以外にも4、5人のオスピタレロがいた。彼らはパソコンの画面を見たりしながら何か話していた。僕が日本から来たことを伝えると、一人の女性のオスピタレロは、「♪雪やこんこ、霰やこんこ・・・」と日本の歌を歌ってくれた。どこで覚えたのだろうか。
 アレックスさんにはお世話をされっぱなしと言うのも悪いので、以前両親と一緒に山に登ったときに描いた二人の絵をプレゼントした。ペンでさっと描いたので色はついておらず、本人とは全く似ていなかったので自分ではあまり気に入っていなかったが、彼はとても喜んでくれた。
 アレックスさんに「この絵にキャプションをつけてくれ」と言われたので、自分の名前と、山に登ったときの両親の絵だということを絵の隅に書いておいた。彼はそれを見て「部屋に飾っておいて、日本の人が来たときにこのことを伝えるんだ」と言っていた。
 それからアレックスさんも絵を描いているとのことだったので見せてくれた。それは手のひらサイズの手帳に描いたものだった。
 彼は一枚一枚ページをめくると、丁寧にその絵について説明してくれた。その中には頭の中のイメージだけで描いた絵もあったし、現実的な風景とイマジネーションが混ざったような絵もあった。色彩も一般的な色使いとは少し違っていて、ユニークな印象を受けた。例えば窓から見た風景だと説明された絵があったが、僕には抽象的な絵にしか見えなかった。他にも「精神的なものを表現しようとしたけれど、完成した絵を見ると自分でもなんだかよくわからなくなってしまったよ」と説明された絵もあった。
 お世辞にもあまり上手いとは言える絵ではなかったが、僕は強く惹きつけられた。色については手持ちのパレットに水彩絵の具を固めていて、それを溶かして色を塗るのだという。僕と同じ方法だったので嬉しかった。
 その後僕の書いたスケッチを見せると、「とてもしっかり描いている」とのこと。以前設計の会社で働いていたことを伝えると、その経験が生かされていると言ってくれた。
 別れ際にアレックスさんは僕に「明日から何を食べていいか、何を食べていけないか」ということをもう一度伝えてくれた。僕は再度感謝の言葉を言って、名残惜しいけれど部屋に戻った。
 就寝22:00。今日はずっと寝ていたので眠れないかと思ったが、すんなり眠ることができた。

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