今日は釧路を立つ日です。
計画では、今日は帯広の「ヤドカリの家」に泊まろうと思っていました。
しかし、富良野でライダーに聞いた話では、「蜂の宿」と同じような雰囲気とのこと。
(調べたところによると、現在は管理人が変わって綺麗になったそうです)
僕はそれを敬遠して、帯広の手前にある池田の「ライダーハウス一福」に泊まることにしました。
実は、ここにも10年前に泊まったことがあります。
朝、予約の電話をすると、女性の声で泊まってもいいとのことです。
荷物をまとめ、宿を出る前におばちゃんに挨拶をしました。
「6日間、ありがとうございました」
「こちらこそ。今日はどこに行くの?」
「池田まで行こうと思います」
「そう。それじゃ、気をつけてね」
発車時刻は10時11分発です。
それほど急がなくてもいいため、乗る前に駅前の「和商」という市場に行きました。
ここでは100店舗近くの店が並び、海産物を初めとするさまざまな食材が販売されています。
芸能人や有名人のサインなども飾られていました。
出発の時間が近づいてきたので、ホームへと向かいます。
釧路駅を出ると雨が降り出し、外の景色は白く霞んでいました。
海も真っ白でほとんど見えません。
3時間ほどで池田駅に到着しました。
雨は止み、晴れ間も覗いています。
この町はワインが有名で、山の上には池田ワイン城という施設があります。
駅前にはワイングラスを模した噴水が置かれています。
また、ドリームズカムトゥルーのボーカルの吉田さんの出身地でもあります。
駅の待合室には、「晴れたらいいね」の歌詞が書かれたポスターが貼られていました。
しかし、駅前はシャッターを閉めている店が多く、かなり寂れています。
池田駅と北見駅を結ぶ「ふるさと銀河線」も、2006年に廃止になりました。
北海道の地方都市は、徐々に衰退しているのでしょうか。
昼食がまだだったので、軽食を売っている店を探しましたが、見つかりません。
一軒の店舗に入って聞くと、少し歩くとコンビニがあるとのこと。
僕はそこで冷やし中華を買って食べました。
それから、ライダーハウス一福まで歩きます。
建物には鍵が掛けられておらず、入ることができました。
「ごめんください…」と、僕は声をかけたのですが、誰もいません。
居間の机の上には、名前を書くノートと、宿泊費の300円を入れる缶が置かれていました。
とりあえず、名前を書いて支払っておきます。
部屋に荷物を置いて、テレビを眺めました。
天気予報によると、やっぱり台風が近づいているとのこと。
うむむ…どうしよう。
僕はテレビから流れてくる天皇陛下のお言葉を聞き、しばらく横になりました。
すると、そこに坊主頭の男性が現れました。
「ああ、暑い暑い」
彼はそう言いながら、ばたばたと家中を回って窓を全開にします。
彼は長い間、ここに宿泊しているのだそうです。
この宿について、いろいろなことを教えてくれました。
「この近くで、食事するところはありますか?」と、僕は尋ねました。
「今は駅前に行かないとないんだよ。
前は、ここのオーナーが目の前で飲食店を経営していたんだけど、今は入院しているんだ。
まさか、ここで食料難民になるとは思わなかったよ」
そのため、今はほとんど宿に電話が繋がらないとのこと。
僕が予約を取ることができたのは、たまたまだったのかもしれません。
この宿も、いつ閉めてもおかしくないのかもしれない…と思いました。
男性が立ち去ると、今度はパーマをかけた女性が現れました。
彼女はバイクで旅行しいるそうで、かなりワイルドな人です。
しばらくしてから、彼女もどこかに行ってしまったので、僕も町を散歩することにしました。
池田ワイン城に行こうか…とも思いましたが、いまいち気が進みません。
僕は駅の待合室まで来ると、ベンチに腰掛けて今後の予定について考えました。
10日にフェリーに乗れば、11日に大洗で父親の車に乗せてもらえます。
茨城の鹿嶋に住んでいる父親が、ちょうどその日に実家のある横浜に用事があるためです。
ただ、台風の影響で、もう一日延ばした方がいいかもしれません。
その場合は大洗から電車で帰る必要があるし、交通費もかかってしまいます。
僕は駅の待合室で迷ったあげく、やはり一日延ばすことにしました。
僕はそのことを家族に電話して伝え、次にフェリー会社に連絡しました。
いったん宿に戻ってから、また駅前まで歩き、レストランで夕食をとりました。
メニューは帯広名物の豚丼です。
駅前の噴水はライトアップされていました。
次に、「清見温泉」に行くことにしました。
宿泊者が多い場合は車に乗せてもらえるのですが、今日は少ないので歩いて向かいます。
坂道を登り、宿から20分ほど歩くと到着しました。
なかなかいいお湯でした。
宿に戻ると、坊主頭の男性とパーマの女性に加えて、初対面のおじさんがいました。
彼らは居間で酒を飲みながら話をしています。
僕もそれに加わることにしました。
おじさんは僕と同じで、青春18きっぷで北海道を回っているんだとか。
「北海道は何しに来たの?」と、おじさんは僕に尋ねました。
「実は、僕は絵を描いているんですよ。10月に個展を開くつもりなので」
「え、本当?見せてほしいな」
僕は気恥ずかしかったのですが、思い切って筒から取り出して見せることにしました。
みんなも僕の絵の周りに集まってきます。
端が丸まってしまうので、足で押さえながら見せます。
「そうやって足で押さえているのがいいね。額に入れて飾るよりも味がある気がする」
そう言っていたのは、見せてほしいと言っていたおじさんでした。
「俺には美術のセンスはないけど、凄いっているのはわかるな」
坊主頭の男性は、そう言っていました。
なかなか好評で嬉しかったです。
明日の朝も早いため、僕は夜10時頃に二階に上がり、寝ることにしました。