朝起きると空は曇っていましたが、雲の切れ間から晴れ間も見えています。
天気予報では一時的な雨に注意とのことでしたが、丘に出かけて絵を描くことにしました。
目指すは「ケンとメリーの木」、そして「北西の丘」です。
ケンとメリーの木は、昔、日産のブルーバードのCMで使われたことから有名になった木です。
大きなポプラの木で、美瑛を代表するシンボルにもなっています。
僕は木村さんに声をかけ、自転車を借りることにしました。
今日は一日、自由に使ってもいいそうです。
この提案はとてもありがたかったです。
もし借りられなかったら、わざわざ駅前のレンタサイクルに行こうとしていたのですから。
朝食をとり、僕はさっそく宿を出ました。
自転車に乗るのは本当に久しぶりで、こんなに速かったのかとさえ思ってしまいます。
宿から北に向かい、市街地を抜けて線路を渡ります。
その先が観光地である丘の集中するゾーンです。
ですが、そこには急勾配の登り坂が待ち受けていました。
僕は負けじと立ちこぎで自転車を走らせましたが、やはり限界です。
おとなしく、降りて歩きました。
ようやくケンとメリーの木に辿り着きました。
ここには10年前にも来たことがありますが、ほとんど変わっていません。
まだ時間が早いので、周囲に人影は少なかったです。
可能なら、ここで絵を描こうと思っていました。
しかし、畑に入るわけにはいきませんし、車の通るアスファルトの道路に荷物を広げるわけにもいきません。
結局、僕はここで描くのを諦めて北西の丘に向かいました。
ここからの景色も素晴らしいと聞いていたのです。
北西の丘には、ピラミッドのような形の展望台があります。
そのせいで遠くからでも良く目立ちます。
道路沿いには、売店や写真館などが五軒ほど建っています。
展望台の周囲は広場になっており、ラベンダーを初めとする様々な花が植えられていました。
ですが、ラベンダーの花の色は褪せ始めていました。
時期がそろそろ終わりを迎えているのかもしれません。
展望台からは、海のような一面のソバ畑が見えました。
ちょうど花を咲かせている時期で、僕はその広さに圧倒されてしまいました。
ここなら、いい絵が描けるかもしれません。
雨が降っても、展望台の屋根の下まですぐに荷物を移動できます。
そう考えた僕は、この場所で描くことにしました。
ただ、気になったのは観光客のことでした。
今はまだ人が少ないですが、後から増えてくるかもしれません。
荷物を広げると、彼らの写真撮影の邪魔になってしまわないでしょうか。
…でも、これだけスペースは広いのだし、大丈夫でしょう。
何より早い者勝ちです。
まずは遠景から白を混ぜて描き、徐々に手前のソバ畑に移行していきます。
少し進めたところで、近くのガラス工芸店に足を運んでみました。
ところが、そこで僕にとって辛いことが起きてしまいました。
(ある人を批判することになるので、ここでは具体的なことは書けません)
僕は店を出ると、帽子を地面に投げつけ、地面の敷石を蹴りました。
周囲の人間は、驚いてしまうかもしれません。
でも、僕にとっては、怒りを抑えるよりも発散させたほうが、早く気持ちを落ち着かせられるのです。
しばらくしてから、絵を描くことを再開します。
昼ご飯を食べ、単調にならないように気を付けながら、近景を描いていきます。
午後になると、予想以上に人が増えてきました。
その中でも特に目立つのが、中国人や台湾人の観光客です。
ファーム富田と同じように、ひっきりなしに彼らはバスで乗り付けてきました。
一通り風景をカメラに収めると、またバスでどこかに行ってしまいます。
それだけ富良野や美瑛は人気なのでしょうか。
必然的に、僕も彼らの被写体の対象になりました。
これだけ大きな絵を描いている人は、やはり珍しいようです。
別に撮るなとは言いませんが、せめて中国語でいいから声をかけてくれないでしょうか。
その中で、僕に声をかけてくれた人たちは印象に残ります。
「すみません。○○大学の写真部の者ですが、描いているところを撮ってもいいですか?」
と、日本人の若い女性。
「すみません、写真を撮ってもいいですか?」
こちらは韓国から来た若い男性で、日本語が上手でした。
「韓国から来たんですか?」と、僕は尋ねました。
「はい、そうです」
「カムサハムニダ」
僕が韓国語で「ありがとう」と言うと、相手は笑っていました。
家族で来た中国人の女の子は、僕の絵をじーっと見つめていました。
家族に呼ばれてどこかに行ってしまいましたが、また戻ってきて眺め始めました。
ずっと一言も喋らずに、です。
しばらくすると、近くに自転車を止める人がいました。
顔を見ると、それは真鍋さんでした。
「こんなところで描いていたんですね」と、真鍋さん。
「ええ、そうです」
「今日、私は美瑛の丘を巡っているんですよ」
「そうなんですか。雨が降らなくて良かったですよね」
明日、彼は愛別方面に行くそうです。
天気が心配ですが、まあ大丈夫でしょうとのことでした。
「ところで、めっちゃ後ろから撮られていますよ」と、彼は教えてくれました。
「まあ、気にしないことにします」
話を終えると、彼はまた自転車でどこかに行ってしまいました。
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絵は午後4時頃に完成しました。
道具を片付け、文房具屋で画材を買ってから、ライダーハウスに戻ります。
それから、真鍋さんと一緒に外食することになりました。
僕たちはラーメン屋に入り、真鍋さんカレー、僕は塩ラーメン(野菜多め)を注文しました。
彼は餃子を一緒に注文し、おごってくれました。
ありがとうございます。
今日は、新たにカブで回っている人が泊まりに来ました。
カブの人と真鍋さんとは年齢が近く、どちらの仕事も製造業でした。
彼らは造船の話をしていて盛り上がっていました。
共通点があると、こんなに話が盛り上がるのでしょうか。
また、夜遅くに歩きでここまで来たという、若い女性の人が現れました。
彼女は一人離れた女性用の小屋に泊まったので、あまり話す機会がありませんでした。残念。