この日は夜中の2時頃に目が覚めてしまって、それからよく眠れませんでした。
最近は不規則な生活をしていたため、夜中に目が覚めてしまうことが多かったからです。
フェリーが揺れて熟睡できなかったせいでもあるのですが。
朝の4時頃になると、うっすらと外が明るくなっていました。
カーテンを開けてみると、ちょうど雲の切れ間から朝日が昇ってくるところでした。
今はまだ雲が多いですが、これから晴れてくるのでしょうか。
7時半にバイキングの朝食をとりました。
それから、甲板に出たり船内でスケッチしたりしました。
いったん部屋に戻って二度寝をします。
起きた頃には、そろそろ苫小牧港に到着する時間になっていました。
荷物をまとめて下船の準備をしていると、一人の男性が話しかけてきました。
「これから、どちらに向かうのですか?」
「富良野や美瑛に行くつもりです。そこで絵を描こうと思っているんですよ」
「絵ですか、いいですねぇ。私は、これから山に登るんです」
彼はそう言うと、一つ一つ山の名前を挙げて、これから行くルートを説明してくれました。
僕にはその位置関係や標高がわかりませんでしたが、かなり長く北海道に滞在して山を制覇するつもりのようです。
「仕事を引退したから、今後は好きなことをやっていこうと思うんですよ」
「でも、北海道の山は気をつけてくださいね。ヒグマも出るし、トムラウシ山では遭難事故も起きているし」
「一応、熊よけの鈴は持っています。気休め程度ですが。家族からは『危ないから止めろ』って言われているんですけどね、はは」
彼はそう言って笑っていました。
彼と一緒にフェリーから下船し、僕はターミナルでしばらく休んでから、苫小牧駅へと向かいました。
今日は苫小牧駅から電車で千歳まで行き、市内のライダーハウスに泊まる予定です。
ターミナルから駅までは、地図上では3キロ余りです。
まあ、このくらいなら歩けるでしょう。
そう考えた僕は、バスは使わずに荷物を担ぎ、幹線道路を歩いて駅まで向かいました。
しかし、その道のりが思ったよりも遠い!
湿度が高く、汗もだらだらと流れてきます。
北海道が涼しい?誰だ、そんなことを言っていたのは。
途中で肩が痛くなり、吐きそうになった…というのは大げさですね。
でも、かなりきつかったので、荷物を下ろして休み休み行くことにしました。
ターミナルから40分ほど歩き、ようやく苫小牧駅に到着しました。
ところが、時刻表を見ると、先ほど千歳駅行きの電車が出て行ったばかりでした。
次の電車が来るのは一時間後!
さっそく北海道の洗礼を浴びた気分です。
仕方なく、駅のホームで待ちながら、今は使われていない電車の絵を描きました。
絵を描いていると、あっという間に時間が経ってしまいます。
いつの間にか次の電車が来る時間になっていました。
色までは付けられなかったので、線画だけ済ませてから電車に乗り込みます。
しばらくすると、電車は千歳駅に到着しました。
さて、本日泊まるのは「ちとせライダーハウス」です。
千歳駅からは、駅前から伸びる道を真っ直ぐ20分ほど歩いた先にあります。
施設は2階建てで、こぢんまりとしていました。
玄関の貼り紙によると、受付はここではなく2軒先の母屋で行うそうです。
僕がその家に行くと、おばちゃんが家の前で草むしりをしていました。
年齢は、おそらく70歳くらいでしょうか。
パーマを掛け、赤い口紅をしているのが印象的です。
外で仕事をしていることが多いのか、肌は健康的に日焼けをしています。
「あなたが今日泊まる人?ずいぶん重そうな荷物ねぇ」
僕と二人でライダーハウスに向かいました。
「部屋は一階のここを使って。荷物は入り口の棚に入れて。トイレはここ。洗濯機はあるけど乾燥機はないの。コインランドリーに行ったほうがいいわよ」
おばちゃんは矢継ぎ早に説明をしてくれました。
とてもお喋りで、世話焼きの人だな、と思いました。
部屋はとても綺麗で、掃除が行き届いていました。
本棚には「週間チャンピオン」が並べられ、隅には洗面台があり、大型のテレビまで置いてあります。
これで宿泊料が1000円とは格安です。
部屋の中では、すでに一人の男性のライダーが休んでいました。
「後で一緒にラーメン屋に行きませんか?この近くにおいしい店があるそうですよ」
ライダーはそう誘ってくれました。
「いいですね!」
その前に、僕はおばちゃんに教えてもらった、歩いて10分ほどの銭湯に行きました。
それからライダーと一緒にラーメン屋「喜亭(きてい)」に行きました。
味はこってりとしていて、おいしかったです。
宿に戻ると急に眠くなってしまったので、夜9時頃に寝ることにしました。