5月19日(月) マンシージャ・デ・ラス・ムラス(0.0km)

 夜中に急に目が覚めて、二回トイレに行った。そのとき下痢気味だったので「おなかの調子が悪いのかな」と思って寝たが、明け方気持ち悪くなり、トイレに行って吐いた。今までにこんなことは経験したことがなかったので、「やばい」と直感的に感じた。
 朝になっても体調は良くならず、それどころかさらに気持ち悪くなったので、トイレに駆け込んでもう一度吐いてしまった。今度は先ほどよりもかなりひどかった。昨日会ったイタリア人は、僕の青い顔を見て「大丈夫か?」と聞いてくれたので、僕は彼に吐いてしまったことを伝えてベッドに戻る。到底出かけられるような状態ではなかったので、そのままベッドで横になっていた。万が一に備えて、洗い場から洗面器を勝手に拝借して、枕元に置いておいた。
 みんなが出て行ってからしばらくすると、オスピタレロの男性が寝室にやってきて僕の症状を聞いてきた。彼は自分の名前はアレックスだと名乗った。彼は大柄の少し太った年配の人だったので、サッカー元日本代表監督のオシムさんのような雰囲気があった。
 「何か欲しいものはある?」と彼に聞かれたので、僕はとりあえずスポーツドリンクが欲しいと言ったら、彼はビンに入ったポカリスエットを買って持ってきてくれた。一緒にコップも持ってきて、「これに移してのみなさい、そのまま飲むとビンの口が汚れてしまうから」と言ってくれた。枕元の洗面器もそのまま使っていていいらしい。
 僕は部屋の一番奥のベッドで寝ていたので、アレックスさんに「もっと風通しのいい場所に移ったらどうだ?」と言われたけれど、動く気力がなかったので、このままの場所でいいと答えた。
 しばらくすると年配の女性のオスピタレロもやってきて、部屋の掃除をしていた。彼女はアンさんという名前で、アレックスさんと夫妻のようだった。彼女も僕に対していろいろ病状を聞き、心配してくれた。
 それから僕はスポーツドリンクと、昨日買っておいた水を交互に飲んでやり過ごす。どうやら少し熱もあるようだった。辛かったのでベッドの中でじっとしていると、ついうとうとしてしまった。
 15:00頃、僕が眠っていると急に女性のオスピタレロに起こされて、「今から病院に行く」とのこと。目覚めると汗びっしょりなことに気づいたので、下着だけでも着替えたかったが、「そのままでいい、準備が出来たら下に降りてきて。車を用意しているから」と言われた。しかしあまりにも気持ち悪かったので下着のシャツだけ着替え、階段を降りていった。
 僕は玄関に待機していた車の後部座席に乗り込んだ。車中は熱気がたまっていたので、暑くてくらくらする程だった。そこでしばらく待っていると二人のオスピタレロが現れて、それぞれ運転席と助手席に乗り込んだ。二人とも中年の女性だった。運転手の女性は「気にすることはないわ、こういうことは毎日のようにあるんだから」と言ってくれた。
 5分ほど車を走らせ、町外れの病院に到着。他には患者も医者の姿も見えなかったので、すぐ診て貰えた。僕のために特別に病院を空けてくれたのかもしれない。助手席に乗っていた女性はどうやら医者だったらしく、服の上から白衣を羽織っていた。もしかしたらその人はオスピタレロではなく、病院に勤務している人だったのかもしれない。
 熱を測ったら37.8度あった。白衣の女性に血圧を測られ、胸に聴診器を当てられた。それから病状を説明され、もう一人の女性がその病状をiPhoneで日本語に通訳しながら伝えてくれた。診断の結果は「胃腸炎」とのことだった。通訳の女性は「ムーチョ・リクイッド(水をたくさん飲め)」と言って水を飲む仕草をしてくれた。とにかく水分をたくさん補給して、胃や腸の中を綺麗にする必要があるそうだ。
 白衣の女性は、スポーツドリンクのような粉末が入った袋と、医者の診断書、それに「胃腸炎のときにどんな料理を食べたらいいか」ということが書かれた注意書きをくれた。風邪を引いたときによく貰うような飲み薬は出ないらしい。
 注意書きには以下の食べ物が推奨されていた。
・米のスープ
・ニンジンのスープ
・ジャガイモとニンジンのマッシュポテト
・魚のスープ
・白身魚(ゆでたものか焼いたもの)
・鶏肉(ゆでたものか焼いたもの)
・ヨーグルト
 逆に推奨されないものは以下の食べ物だ。
・牛乳
・生のフルーツと野菜
・緑の野菜
・ドライフルーツ
・脂のある肉や魚
・ソース
・甘いもの
・イカ
・チョコレート
 注意書きはスペイン語で書かれていたので、今訳しながら書いている。

注意書き
注意書き

 その後は車で宿に戻り、再度ベッドで横になる。もらった粉末を飲もうと思って水に溶かしてみると、毒々しいまでのオレンジ色だった。しかも味はポカリスエットに比べるとおいしくなかった。しかし白衣の女性は「まずいけど体にいいのよ」と言っていたので、仕方なく飲むことにした。
 後で考えたけれど、結局胃腸炎になった原因の食べ物はわからなかった。昨日パスタに入れた野菜の缶詰が一番可能性は高いが、断定はできない。キッチンが混雑していたので、缶詰の炒めかたが足りず、あまり火の通っていないまま食べてしまったからなのかもしれない。菌には1~2日ほど潜伏期間があるので、昨日の夜ではなく、おととい食べたニシンがいけなかったのかもしれない。いろいろ推測したが、これだという結論は出なかった。胸が痛んだけれど、余っていたパスタやパンはあとで捨ててしまった。
 今日は水を飲んだだけで、何も食べられなかった。

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