6:00起床。朝食としてインスタントスープと昨日買ったパンを食べる。
いつも前日のうちに大きなフランスパンを一本購入しているが、朝になるとお腹が空いてしまっているので、2/3くらいはジャムをつけて食べてしまう。毎日重い荷物を背負って歩いていると、莫大なカロリーを消費するからだ。僕は体もひょろっとしているし普段は小食だが、カミーノに来てからは1.5倍から2倍くらいは食べていると思う。このときはまだそれほどの量ではないが、旅の最後のほうには食べる量が尋常ではなくなっていった。
ちなみにカミーノを歩く上で、食べることは特に重要だ。登山や自転車でも同じことが言えるが、エネルギーが足りないと、「ハンガーノック」という極度の低血糖になり、下手をすると一歩も動けなくなってしまうからだ。でもパンはあまり腹持ちが良くなく、お腹一杯食べてもすぐに空腹になってしまう。やっぱり日本人なら白米が食べたいなぁ。残ったパンはリュックにしまっておき、歩いている途中で空腹になった時に食べることにした。
準備を整え、7:20頃に出発。空は曇っている。もうすでにその時間はかなりの人が出発していた。みんな行くのが早いよ。
今日は約21km先のロス・アルコスという町に向かう予定だ。英語のガイドブックによると、町を出てから巡礼路は二つのルートに分岐する。山道のルートと、いくつかの町を経由して行くルートだ。前者の山のルートほうが景色は良さそうではあるけれど、こちらはメインの巡礼路ではないので、歩いている人は非常に少ないことが予想できた。そこで迷ったら元も子もないので、後者のいくつかの町を経由するメインのルートを通ることにした。
エステージャを出発してから1時間程度のところに、イラーチェ修道院というところがある。なんとそこでは蛇口をひねると無料でワインが飲める水道がある。しかし僕はあまりお酒が飲めないのでスルーしてしまった。でも、その修道院の方から戻ってきた人が「もう空っぽ!」と言っていたので、たとえ行ったとしても飲めなかっただろう。
その後はしばらくブドウ畑の中を通る。雨がぱらつくことはあったが、それほど強く降るわけではなかった。それから周りの風景はブドウ畑から麦畑になった。風が吹くと緑の麦畑の穂がさわさわとなびいて、模様を作り出しているのが綺麗だった。草がなびくと「ああ、今この上を風が通っているんだ」と気づく。山道を通らなくても、こちらも景色がいいじゃないかと思った。
そこからはだらだらとした登りになる。しばらく歩くと、目の前にはピコ・デ・モンハルディンというピラミッド形の山が見えてきた。巡礼路はその山の右側を抜けていくルートになる。その途中には1200年頃出来た「モーロ人(イスラム教徒の人)の泉」という貯水槽があった。現在でも水をたたえていて、階段で水面の近くまで降りていくことが出来た。水はブルーで透き通っていた。
10:00頃、もうすでにお腹が空いてきたので、山のふもとにあるビジャマヨール・デ・モンハルディンという町のバルで食事をとることにした。ボカティージョにジャガイモが入ったトルティージャをはさんだものを注文した。ちなみにジャガイモはスペイン語で「パタタ」という。「ボカティージョ・トルティージャ・パタタ」と言ったら、だいたい今日食べたこの料理のことを指す。パンとジャガイモと言う組み合わせは、日本で言うとコロッケパンに近い感じなのかもしれない。出されたボカティージョはかなりボリュームが多かったが、食べきってしまった。
そのバルで昨日夕食のときに一緒になったトーステンさんと再会。同じテーブルに座り二人でしばらく会話した後、トーステンさんは「じゃ、お先に!」と出発したが、彼は貴重品が入ったバッグを机の上に忘れたまま行ってしまった。僕は急いで外に出て彼の姿を探したけれど、見つけることはできなかった。でもしばらくしたら彼は慌てて店に戻ってきて、バッグをつかんで去っていった。良かった。
そこからはしばらく麦畑の一本道の中を進む。10kmほど周囲には何もない区間だ。道はなだらかで歩きやすいが、景色の変化が少ないので少し単調な感じもした。朝に比べると天気は回復して、少し暑くなってきたので上着を脱いで歩く。遠くまで見渡すことができて、はるか先を歩いている巡礼者たちの姿が豆粒のように見える。来る前に予想していた「これぞカミーノ!」という道だった。途中でトイレに行きたくなるけれど見当たらないので我慢・・・。
それからしばらく歩くと牧場があり、そこで羊の大群に出会った。羊たちは狭い柵の中にぎゅうぎゅうに押し込められていた。たまたま羊飼いのおじさんが門を開けるところに遭遇して、羊の大移動を見ることが出来た。おじさんが羊を先導し、二匹の犬が羊の一番後を追う。たまに犬が羊のお尻に飛びつき、羊がびっくりして走っていた。
ロス・アルコスの町の近くでは、民家の柵の中でヤギやニワトリなどの動物が飼われていた。子ヤギはこちらに興味をくれたのか、金網の近くまでやってきたので、アップの写真を撮った。
13:00頃、今日の目的地のロス・アルコスの町に到着。公営のアルベルゲにチェックインする。この宿は夫婦で切り盛りをしているようだった。入り口で奥さんに「靴をサンダルに履き替えて」と言われたので靴を脱ごうと思ったが、それに少し手間取っていると、「慌てなくていいのよ、まだ時間は早いんだから」と言われてしまった。
その後旦那さんに連れられてベッドがある二階に移動。シャワーを浴び、洗濯をして一眠りする。その後町を散歩した。ロス・アルコスの町の中心にはサンタ・マリア教会があり、その周囲の広場に飲食店や商店がある。僕は一軒の商店に入って明日の朝食を買った。その後アルベルゲに戻り、ダイニングルームで昨日描いたエステージャのスケッチの続きを描いた。
19:00頃から夕食をとりに出かける。レストランは教会の近くに数ヶ所あったが、そのうちのひとつの店がパエリアの看板を出していた。僕はせっかくスペインに来たんだし、一度食べてみようと思ってその店に入ってみた。店内では巡礼者たちが集まって食事をしていたので、僕もその席に加わることにした。彼らはドイツから来たのだと言う。しかし彼ら同士はドイツ語で話をしていたため、僕には内容を全く理解できなかった。
メニューを見るとパエリアは8種類あったので迷ったが、魚介類や肉や野菜がバランスよく入ったミックスパエリアを頼むことにした。ちなみにメニューは数ヶ国語で書かれていたが、なんとその中に日本語も書かれてあった。こういうところの日本語はかなり怪しいことが多いが、ここのメニューはちゃんとしていた。
しばらくすると黒い鍋に入ったパエリアが運ばれてきた。期待しつつ一口食べてみると・・・めちゃめちゃうまい!さすが本場スペインだ。あまりにもおいしかったので僕は巡礼者同士の会話には加わらず、一心不乱にパエリアを食べていた。鍋の底にこびりついていたおこげもこそげ取って食べた。あっという間に完食。幸せな気分になった。
20:00から町の中心にあるサンタ・マリア教会のミサに参加することにした。この教会は12世紀に建造がスタートしたが、18世紀まで改修が進められたという。そのためロマネスク・ゴシックを含めた4種類の様式が混在しているそうだが、外から見た限りでは僕には違いがよくわからなかった。建物の中に入ってみると、豪華絢爛な装飾が待ち構えていた。
ミサが終わった後、司教さんは「巡礼者たちは前に集まってください」と僕たちを呼び寄せた。司教さんは一通り話をしてから、「これからの旅の安全を祈ってカードを渡します」と喋っていた。カードにはいくつかの種類があり、それぞれ書かれている言葉が違うようだった。
司教さんは「英語のものがほしい人は?スペイン語は?」と確認をしながら巡礼者たちにカードを渡していた。それぞれ巡礼者は欲しい言葉のカードを受け取っていたが、残念ながら日本語版はなかったので、僕は英語版を受け取った。カードの表にはこの教会にも飾られていた聖ヤコブ像の写真が印刷されており、裏面には「プレイヤー・オブ・ザ・ピルグリムス(巡礼者の祈り)」という内容の言葉が書かれていた。
その後アルベルゲに戻り、22:00ごろ就寝。