今日は中富良野駅から富良野駅へと向かい、そこで描く計画を立てました。
ついでに、富良野駅前のコインランドリーで洗濯をしようと思っていたのです。
朝食をとり、6時半に出ました。
洗濯する衣類を荷物に入れていたため、その分リュックが重たいです。
電車が出発するのは7時過ぎで、駅までは約2キロあります。
果たして間に合うのかと思いながら、僕は早足で歩きました。
…しかし、駅にたどり着いた頃は、電車は3分前に出て行った後でした。
次の電車が来るまで、一時間は待たないといけません。
僕は自分に原因があることはわかっていましたが、腹を立ててしまいました。
「ちくしょう!」
僕は大声を出し、地団駄を踏みました。
しばらくベンチでぼんやりしていると、そこに昨日のライダーハウスで会った、若い眼鏡をかけた男性がやってきました。
彼は自転車で宿からここまで来たそうです。
「ライダーハウスから、ここまで歩いてきたんですか?」
彼は驚いていました。
「ええ、そうなんです。本当は一本前の電車に乗る予定だったのですが、乗り遅れてしまって。
今、次の電車を待っているんです」
「そうだったんですね」
「ところで、北海道には自転車で来たんですか?」
「普段は車で旅しているけど、富良野は自転車で回ってみたくて。
『へそ祭り』が終わるまでは富良野にいて、それから東北に行こうと思うんです」
彼の言う「へそ祭り」とは、富良野駅周辺で行われる、腹に顔の絵を描いて踊る祭りです。
太っている人ほど上下に腹が揺れて、ユニークな顔立ちになるといいます。
飛び入りで参加も可能で、腹に絵を描いてもらえるサービスもあるそうです。
ただ、僕は痩せているので、仮に描いても魅力的な顔にはならないでしょう。
(へそ祭りの公式サイトはこちらです)
しばらく話をしてから、彼は自転車に乗って出かけていきました。
僕はようやく来た8時発の電車に乗り、富良野駅へと向かいました。
富良野駅は、中富良野駅から3駅行ったところにあります。
この駅は中富良野駅よりも大きく、それだけ乗り降りする乗客も多いです。
電車を降りると、さだまさしの「北の国から」が流れ、ここが一大観光地であることを感じさせます。
ここで降りる人は、やはり中国人が多かったです。
駅のアナウンスには、日・英・中・韓の四カ国語が使われていました。
僕は駅構内で昼食のおにぎりを買いました。
次に、コインランドリーの場所を確認してから、今日の目的地である「朝日ヶ丘公園」に向かいます。
ここを選んだ理由は特にありません。
ツーリングマップルの「花の名所」というだけで直感的に選んでしまいました。
今日も良く晴れていて暑いです。
ただし、明日から天気が崩れるため、この一日は有効活用しないといけません。
駅前の道を直進し、空知川に架かる五条大橋を渡ります。
渡った先で右折して川沿いに歩きました。
目的地までは思ったよりも距離があり、容赦ない日差しが照りつけてきます。
北海道は自動車かバイク移動が基本で、徒歩は向いていないのでしょう。
ようやくのことで、朝日ヶ丘公園に到着しました。
そこは比較的ありふれた、普通の公園でした。
広い敷地に芝生が一面に植えられ、一通り遊具が置かれていて、木で作られた東屋があります。
園内では老人たちがゲートボールを楽しんでいます。
普通に遊ぶだけなら楽しい公園ですが、僕には魅力的に感じられませんでした。
この近くに描ける場所はないかと思って、周辺を探しました。
すると、近くの林道の雰囲気がとても良かったです。
下は砂利道で、木漏れ日が当たって白く光っています。
道の両側は林になっており、左には緑の木々が、右には杉の木が生えています。
日陰なので居心地も良さそうです。
僕はこの場で描くことに決めて、イーゼルを立てて描き始めました。
すると、道の向こうから小学生くらいの男の子と女の子がやってきました。
彼らはきょうだいでしょうか。
男の子は携帯ゲーム機を持ち、何かを探しているようです。
あれが最近の噂になっている、「ポケモンGO」かもしれません。
…でも、待てよ。あれはスマホのゲームのはずです。
ゲーム機でも遊べるのでしょうか。
僕は疑問に思いましたが、いいチャンスだと思って二人に声をかけることにしました。
「こんにちは!」
「あ…こんにちは」と、男の子。
「もしよかったらだけど、今、時間ある?」
「あ、はい…」
「それなら、ちょっとこの辺に立ってくれるかな。…もう少し遠く。そうそう、そんな感じで」
もしかしたら、驚かせてしまったかもしれません。
でも、二人はおとなしく、僕の指示に従ってくれました。ありがとう!
待たせるのも悪いからと、急いで彼らの姿を絵に描き加えます。
僕は描きながら、以前にセツ・モードセミナーで行われた風景写生会の合評で、H先生の言葉を思い出していました。
「人物が少しだけ入っている絵がいいね。
ただ風景だけの絵だと『綺麗だね』で終わってしまうけど、人物が入るとストーリー性が出てくる。
この人が何を考えているんだろうって、いろいろ想像したくなるね」
それから僕は、できるだけ風景の中に人物を入れようと心がけるようにしました。
そこには、絵の評価を良くしようとする打算が含まれているのかもしれませんが。
「もういいよ。ありがとう。ばっちり描けたよ!」
僕は二人にお礼を言いました。
ところが、今日は昨日ほどスムーズに筆が運びませんでした。
その理由はいろいろあります。
昨日、長いこと絵を描いていたので、疲れていたこと。
点描で描く表現に、少しうんざりし始めていたこと。
旅に出てからあまりよく眠れないこともあったので、途中で眠くなってしまったこと。
虫が多いので、いちいち振り払わなくてはいけないこと。
特に虫については頭を悩まされました。
こちらでは蚊はほとんどいませんが、代わりにアブが低い音を立ててぶんぶん飛び回っています。
アブは刺されると赤く腫れて、非常に痛痒くなるといいます。
また、メマトイという小さな虫は刺すことはないですが、人間の目の周りのタンパク質や粘膜に反応して飛び回るので、うっとうしいことこの上ありません。
だが、肝心の虫除けスプレーは、ライダーハウスに置き忘れていました。
持ってくるんだったな、と後悔しました。
昼食をとってしばらく描いていると、猛烈に眠くなってしまいました。
東屋で30分ほど寝ると、少し頭がすっきりしました。
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絵は午後5時頃に完成しました。
最後の方は急ぎ足になりましたが、形になったのでこれで良しとします。
電車の時刻が午後7時過ぎなので、それまでに夕食を済ませて洗濯をしないといけません。
僕は急いで片付け、写真を撮って現場を後にしました。
富良野駅に戻ったのが午後6時過ぎです。
コインランドリーに立ち寄り、衣類を洗濯機に放り込みました。
その間に夕食をとることにします。
僕は駅前の「鎌ちゃん」という定食屋に入りました。
そこで、僕は定食を頼みました。
揚げ物や魚、味噌汁など、結構ボリュームがあっておいしかったです。
食事中、カウンターの奥にいたおばちゃんが話しかけてくれました。
「お兄さん、どこから来たの?」
「横浜からです」
「観光しに来たの?」
「ええ、そうです」
本当は絵を描く目的でしたが、その説明は面倒に感じていました。
「それなら、駅前で明後日から行われる『へそ祭り』に参加するのはどう?
そこにポスターが貼ってあるでしょ」
「この祭りって、もう長いことやっているんですか?」
「ずいぶん長いわね。でも、一度見たらもういいわ、という感じだけどね」
そんなものだろうか、と拍子抜けでした。
明後日には美瑛に移動する予定だったし、もともと参加する気はなかったのですが。
僕は店を出ると、コインランドリーに戻って衣類を乾燥機にかけました。
しかし、電車の出発の時間が迫っているため、途中で機械を止めて衣類を袋に入れます。
まだ乾いていませんでしたが、仕方ありません。
そこに鍵を持った店員の女性が現れました。
そろそろ店を閉めるのでしょうか。
「まだ、乾燥機は使ってていいわよ。途中じゃない」
「いえ、電車の時間があるので」
「それじゃ、仕方ないわね」
僕は電車でライダーハウスに戻り、室内に洗濯物を干しました。
明日も泊まるわけだし、しばらく干しっぱなしでいいでしょう。
それから温泉に行き、また宿に戻ったのは9時過ぎでした。