今日は釧路湿原に行く予定です。
この日も5時に起き、駅まで歩いて6時2分発の電車に乗りました。
今日も霧が出ていましたが、予報ではこれから晴れてくるとのこと。
さて、今日は一昨日行った「釧路湿原駅」ではなく、その先の「塘路(とうろ)駅」で下車しました。
ここには「サルボ展望台」「サルルン展望台」という二つの展望台があり、どちらも眺めが良いと聞いていたからです。
観光案内所のおじさんは、サルルン展望台までは歩いて行けないと言っていました。
でも、とりあえず行けるところまで行ってみよう、と思います。
何もない釧路湿原駅とは違って、こちらの駅前は小さな集落になっていました。
広場では、地元の住人たちがラジオ体操をしています。
僕は駅のベンチで朝食をとり、まずはサルボ展望台へと向かいました。
幹線道路を少し歩くと、周囲は原生林が広がる森になりました。
川をカヌーで下っている人たちもいます。
蜘蛛の糸には朝露が付いていました。
30分ほど歩き、サルボ展望台へと至るサルボ歩道に到着しました。
ここからは山歩きです。
…ところが!遊歩道の途中で崖崩れが発生しており、この道は通れないとのこと。
そのため、迂回路を歩くことを余儀なくされました。
原生林の中を通り、ようやくサルボ展望台に着きました。
ところが、霧がかかっていて、あまり見栄えは良くありません。
徐々に晴れてきてはいるのですが。
僕はそこで、東京と横浜から来たという、若い二人の男性と話をしました。
それから、僕はその先にあるサルルン展望台へと足を運びました。
クマザサが生い茂る山道を歩き、15分ほどで木造の展望台に到着!
サルボ展望台と違って、こちらの眺めは圧巻の一言でした。
霧が晴れると、北海道の広々とした風景がこうも眺められるとは。
目の前には、緑の草原と木々がどこまでも広がっています。
その真ん中にぽっかりとサルルン沼があり、そこには緑色の藻が浮かんでいます。
ここまで足を運ぶ人は少ないのか、周囲には誰もいません。
そのおかげで、僕はこの景色を独り占めすることができました。
多分、この旅で一番印象に残った風景でしょう。
僕はここにイーゼルを下ろして描きたかったのですが、あいにく絵画用の水を用意していませんでした。
荷物の重量を減らすため、持ち歩いていなかったのです。
でも、この印象を記憶にとどめておきたい!
そう考えた僕は、絵の具が入った箱の裏にこの風景の絵を描くことにしました。
ペンでさっと描き、軽く色を付けただけでしたが。
僕は描き終えると、展望台をあとにしました。
さて、今日はどこで描こうか…と、山を下りて考えます。
しばらくうろうろした後に、「塘路湖」という場所に行ってみることにしました。
もともと、釧路湿原の一帯は大きな浅い湾でした。
しかし、寒冷化が進んだことによって海水面が下降し、約3000年前に湿原になりました。
塘路湖は、そのときの水が取り残されたものだと言われています。
駅方面まで一旦戻り、湖に繋がる遊歩道を歩きます。
この辺りは公園として整備されています。
パークゴルフ場や「塘路湖エコミュージアムセンター(あるこっと)」という施設が建てられていました。
湖のほとりには、レジャー用のボートが並べられています。
ここは木陰になっていて気持ち良さそうです。
僕はここで描くことに決め、イーゼルを立てて道具を広げました。
描いていると、一人のおじさんがやってきました。
「こんにちは。お上手ですね」
「ありがとうございます」
「私はそこのエコミュージアムセンターの職員なんです。絵を描いているところを写真に撮ってもいいですか?こんなことをしている人がいる、ということを紹介したいんです」
「いいですよ」
彼は僕の写真をカメラに収め、お礼を言いました。
「この辺は虫が多いので気をつけてくださいね。ブヨなんか、刺されると赤く腫れてしまうので」
「わかりました」
ブヨとは、蜂のように大きな虫です。
しかし、この日僕は虫除けスプレーを持ってきていませんでした。
注意しないといけないな、と思いました。
「ここは描いていて気持ちいい場所ですね」と、僕。
「その代わり、冬は大変ですけどね。マイナス20度くらいになることもざらだし」
「マイナス20度…どんな世界なんですか」
「寒いと言うよりも、痛いですね」
「へぇ~」
「それじゃお邪魔しました。時間があったら、エコミュージアムセンターにも寄ってください」
彼はそう言うと、施設の中に戻っていきました。
僕はしばらく描いたあと、お昼を食べました。
ところが、今日は5時起きだったため、ものすごく眠くなってしまいました。
でも、エコミュージアムセンター内で寝るのは、行儀が悪いなぁ…。
そう感じた僕は、パークゴルフ場の東屋に寝転んで一眠りすることにしました。
ここなら虫が来なさそうだと感じたからです。
30分ほど眠るとかなりすっきりしましたが、同時に腕が痒くなっていることに気付きました。
しまった!刺されてしまったか!
うーん、見通しが甘かったようです。
何の虫かはわかりませんが、このまま放置するのも良くありません。
僕は先ほどのエコミュージアムセンターの職員に助けを求めました。
「すみません。虫に刺されてしまったのですが、薬はありますか?」
「ちょっと待ってて」
彼はそう言うと、チューブに入ったムヒを取り出し、僕の腕に塗ってくれました。
「これでしばらくは大丈夫。気をつけたほうがいいよ」
「ありがとうございます」
僕はついでに、館内を見学することにしました。
そこには、釧路湿原の歴史や、そこで見られる動植物、バードカービングの作品などが展示されていました。
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絵は午後5時を過ぎた頃に完成しました。
風が吹いている湖面を描くのが難しかったのですが、そこそこ上手くいったかな、と思います。
完成間際に、ちょうど良いタイミングで、また先ほどの職員のおじさんが現れました。
完成したことを伝えると、彼は絵の写真を撮りました。
僕が荷物を片付けて立ち去るまで、おじさんは見守り続けてくれました。
歩いて塘路駅まで戻ります。
午後6時半に釧路行きの電車に乗りました。
釧路市内では、この日から三日間、大きな祭りが開かれています。
駅前ではパラソル付きのテーブルデッキが置かれ、多くの人がそこで食べています。
メインストリートの北大通りでは、大勢の若者たちが船の形をした山車(だし)を引いています。
音楽に合わせて踊っている人たちや、太鼓を叩くパフォーマーたちもいました。
僕はそれらを見ながら大通りを歩き、フィッシャーマンズワーフMOOに向かいました。
今日は、港の屋台の「藤」という定食屋に行き、焼き魚定食を注文しました。
宿に戻ったのが午後8時半過ぎ。
すっかり遅くなってしまいました。